2008年1月16日水曜日

品質別電力供給システム in 仙台市

今日は仙台市の「品質別電力供給システム」の
実証研究プロジェクトを見学してきた.
電気学会の調査専門委員会主催の見学会である.
(珍しく今日は飛行機で出張したので
時間に余裕があり,このブログも更新できた)

このプロジェクトはNEDOからNTTファシリティーズや
仙台市,東北福祉大学等が委託を受けて,
多品質の電力を同時に供給しようとするものである.
私は以前にも見学をしており,これで3回目.
前回については,このブログにおいても
少し紹介した覚えがある.

さて電力の品質とは何か.
まずは電圧と周波数が定められた範囲内にあること,
ということになる.

電圧というのは,例えば100Vであれば,
95Vから107Vの間で供給されることであり,
周波数であれば,+/-0.2Hz(あるいは0.3Hz)の
間に制御されることである.
(周波数の値は電力会社が決めている値)
これがこの範囲を越えると品質が悪いということになる.

次に電圧に高調波が含まれているのも具合が悪い.
本来電圧波形は,滑らかな正弦波であるはずだが,
系統に接続されたパワーエレクトロニクス機器を中心とした
負荷によって,歪んでいたりする.
これが他の電力機器に悪い影響を及ぼすことがある.
高調波が含まれている率が低いこと.
これも電力品質の指標のひとつである.

そして最後に,供給の信頼性も問題だ.
簡単に言ってしまえば,停電がないことがこれにあたる.
日本では停電が非常に少ないことは,
誰もがある程度実感している.
私が子供の頃はもっと停電が発生したように思う.
(実は,マレーシアなどは日本よりも停電が少ないらしいけど)

しかし,停電とは行かないまでも,
短時間において(10ms~1秒とか)
電圧の値が90%とか,70%くらい低下するようなことならば,
しばしば生じているのである.
これを瞬時電圧低下(略して「瞬低」)と呼ぶ.

嵐が来ているときなど,たまに蛍光灯が「チカッ」と
一瞬だけ暗くなることがある.
これが瞬低である.
日本においてはこの原因の多くは落雷である.
台風の到来時などは連続して発生することも多い.

蛍光灯であれば,一瞬暗くなるだけで済むけれど,
半導体工場などではこの一瞬の電圧低下によって,
サーボモータなどが停止してしまい,
工場がストップしてしまう.
あるいは製品である半導体などの品質が落ちてしまうなどの問題がでる.
その被害額は,一回で一億円とも二億円とも言われている.
0.2秒(まばたき程度)の瞬低でこの被害である.

もちろん,情報管理のための
サーバもこうした被害を受けやすい.
壊れないように自動的に止まるようになっているのだが,
復旧には労力・時間がかかってしまう.
そのために損益が生じてしまうのだ.
だからこの対策に,そうした業界はやっきになっている.

そこで,瞬低対策装置とかUPS(無停電電源)などが
これらの対策装置として研究開発されてきた.
しかし,これらの装置は一般的に高価である.
年に数回しかこないであろう瞬低のために,
それらを全ての機械,全てのサーバに設置するのか,というと,
当然もう少し安くならないか,という話になる,
それを実現しようとするのが,今回見学した
「品質別電力供給システム」である.

つまりは,品質の高い電力を送るための装置
(瞬低対策装置やUPS)の集約化をはかり,
高品質の電力の供給を実現しつつも
コスト低減を目的とするのが
この「品質別電力供給システム」なのである.

一方,電力品質も,瞬低も停電も補償する品質や,
瞬低だけしか補償しない品質など,いろいろ考えられる.
そうした複数の電力品質を需要家の要求に応じて(負荷に応じて)
供給できればよい.
しかし,高品質の電力供給は,その品質が高くなればなるほど
新たに装置の設備投資が必要になるため,
課金を高くせざるを得ない.
これをどうするかということが問題となっている.
少なくとも各需要家が個別にUPSなどを設置するよりは
安価にそうした高品質の電力を得ることができなければ
市場には普及しないだろう.

このプロジェクトではとりあえず技術的な問題は解決できた.
複数の品質の電力を同一地域で同時に供給できることが実証された.
今後は,コスト,効率,CO2削減などいろいろな指標によって
このシステムのメリットを評価していくことが重要である.
それが将来の「品質別電力供給」の社会受容性を決める.

折りしも大寒波の中の見学となり,
太陽電池パネルの下に張った氷を見て
うらめしく思ったりもしたが,
紹介された数々の実験結果は,
このプロジェクトの成功を示すのに
十分なものばかりであった.
本当に素晴らしいと思う.
あとはこの先,どのようにこの技術を育てていくか.
省エネ,CO2削減など社会情勢を鑑みながら
戦略を練っていくことになるのだろう.

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