2009年3月11日水曜日

現代の「たたり神」

高校3年生だった.
空手道部も引退し,
受験勉強で一年を塗りつぶした年,
(実はそんなことはなく,かなり楽しかったけど)
阪神タイガースが優勝した.

その年の春,ジャイアンツの槙原は,バース,掛布,岡田に
3連続でバックスクリーンにホームランをたたきこまれ,
秋には,バースは50本以上の本塁打を打って,
三冠王を取ろうとしていた.

そして,わが栄光のジャイアンツは3位となり,
タイガースがリーグ優勝を果たした.
西武との戦いにも決着をつけ,とうとう日本一になった年.
それが1985年である.

あの年の熱狂ぶりは本当にすごかった.
日本全国にこれだけのタイガースファンがいたのかと
誰もが思ったはず.
どこに行っても,黄色と黒の縞模様を見かけた.
サッカーにはフーリガンと呼ばれる
暴力的なファンがいるという話を聞いていたけれど,
それが日本ではタイガースファンにいると思ったものである.

道頓堀川の騒ぎもテレビで全国に放映されていた.
そして,カーネルサンダースが投げ込まれたことも
もちろんニュースで知っていた.
それは,1985年の熱狂の象徴であった.
だから野球ファンであればだれでも,
あの人形が川に投げ込まれたことを覚えている.
それが昨日見つかった.
24年ぶりということである.

あれ以来タイガースは日本一となっていない.
翌年からタイガースは徐々に上位から陥落していった.
リーグ優勝はしたけれども,日本一にはなっていない.
それはカーネルサンダースの呪いだと言われていたのだという.

私が人形発見のニュースを聞いて思ったのは,
あのカーネルサンダースの人形はこれから
「たたり神」として祭られることになるのだろう,ということである.

「たたり神」とは,平将門や菅原道真のように,
世に災いをもたらす悪霊として恐れられていたものが,
手厚く祭られることによって,転じて人に福をもたらす神となったものである.

阪神ファンの間では,かの人形は
まさに災いをもたらすものであったに違いない.
今後は阪神タイガースの福をもたらすよう,
どこかで神様として祭られることになるだろう.
それはまさに「たたり神」である.
全く1000年以上前から繰り返される歴史そのものである.

このご神体は,まさに現代を象徴するファーストフードの,
真黒になった人形であって,それ自体には本来の価値はないけれど,
そこに私たちが神性を与えることによって,
別のものになり変わるのだ.
そしてこの神性賦与の儀式は,この現代においても
大きな影響を私たちの心象に与えるものらしい.
この話題の新聞の取り上げ方がそれを示している.

この消費世界の象徴であるカーネルサンダースが
(それも本来の意味は失われ,真黒な人形が)
現代のたたり神になるという事実こそ,
非常に興味深いことなのではないだろうか.

村上春樹の「海辺のカフカ」の作中で,
カーネルサンダースが果たしていた役割を
私はすぐに思い出したのである.

#関西では非国民となるGファンである私にとっては
彼は神様にはならないだろうけれど...



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