2009年8月5日水曜日

ニワトリとタマゴの関係

世の中には,AとB,どちらが先に始めるか,
とお互いの動きを牽制するばかりに,
全体の事態が進展していかない状況というものがある.

たとえば,電気自動車.
現在人気のハイブリッド車(HEV)とは違って,
エンジンを積まずに燃料電池とモータだけで
走る自動車をPure EV(PEV)と呼ぶが,
PEVと水素ステーションの関係がこの状況にある.

燃料電池は,今年になって家庭用定置型のものが
一般販売されるようになり,またひとつ普及が
進んでいるけれど,PEVとなるとまだまだ先のような
印象を受ける.
まずは燃料電池の性能がまだまだ不足しているという
ことなのだろうと思うけれど,社会インフラの未整備も
課題として挙がっている.

PEVは燃料電池を動力源としているので,
水素をガソリンの代わりに補給する必要がある.
だから運転する先々で水素補給場所,
すなわち水素ステーションがなければ,
安心なドライブはできないことになる.
しかし,現在国内には11か所しかないのだという.
これではいくら燃料電池車を出荷しようにも
水素補給する場所がなければ,
誰も買わないに違いない.
だから燃料電池車の開発者は,
まず水素ステーションをあちらこちらに
設置すべきだと主張する.

一方,水素ステーションを整備する側の企業は,
燃料電池車が数多く走らなければ,
水素ステーションを建設しても維持することができない.
ますは燃料電池車の普及が先だと主張する.

お互い相手の出方を見あって,
事態が進まないということになる.
これをニワトリとタマゴの関係と人は呼ぶ.
(本来,この言葉はこんな使い方をしたのか,
私は疑問に思っているのだけれど)

この状況を打破するには,やはり政治的主導による
補助しかないのだろうと思う.

パワーエレクトロニクス分野においても同様の状況がある.
逆阻止型の半導体素子(たとえば逆阻止IGBTなど)と
マトリックスコンバータの関係がそうである.

少し専門的な話になるけれど,
マトリックスコンバータでは,順方向の電圧を阻止するだけでなく
逆方向の電圧も阻止できる素子がなければ
双方向スイッチが実現できない.
逆阻止型の素子の入手が困難な現状では,
IGBTとダイオードが並列に接続されたユニットを
逆直列に接続することによって,双方向スイッチを実現している.
これが2個の逆阻止IGBTを逆並列に接続することができれば,
回路は簡素化できるばかりでなく,損失の低減に
大きく貢献できると期待されている.
しかし,その逆阻止型の半導体素子が手に入らないのである.

逆阻止型の半導体素子はマトリックスコンバータの他,
電流形の変換器の用途に適している.
しかし,現在においては電流形の変換器の応用先は
数少ないと言われているのである.

そこで半導体メーカは,市場がない素子を開発しても
仕方がないという.
現在の不況下にあってはなおさらのことである.
一方,回路側は新たな素子が新たな市場を生むのだ,
と主張する.
逆阻止型の素子の入手が容易になるのであれば,
新たな用途が提案されていくはずであると.

回路(用途)が先か,素子が先か.
ニワトリとタマゴの状況なのである.

こちらの方は,強いドライブフォースは働きにくいので,
解決は難しい状況である...
まずは電圧型の素子を工夫して用いて,
マトリックスコンバータや電流形半導体変換器の
用途を広げていくことしかないのだろうと思うけれど.

とにかく,どちらが先かという話は
世の中のあちらこちらの転がっていそうである.
大局に立った決断が必要なのであろうけど,
それが難しい経済状況であることも十分に理解できる.
しかし,せっかくの新しい市場がこうした事情で
創出できないというのは本当にもったいないことだと思う.
なんとかならないものだろうか...

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