2011年11月25日金曜日

ハーモニー,伊藤計劃: 善意に満ちあふれたディストピア

「もし聖人ばかりの世界がこの世にあるとしたら
そこは「地獄」という名で呼ばれるだろう」

という銀河鉄道999の言葉を
この本を読み終えたとき思い出した.
(どこの星での言葉だったか忘れたけれど)

「ハーモニー」(伊藤計劃,ハヤカワ文庫)

それは善意で満ちあふれた閉塞しきった世界.
伊藤計劃が描いた世界はまさにそうしたものだった.
健康であることが要求される近未来.
自分たちはリソースなのである.
その世界では,医療分子を体内に入れることにより,
病気のほとんどを予防できることが実現している.

しかし,異端はどの世界にも存在し,
主人公の親友だった少女は,
その閉塞しきった世界を変える存在となっていく.

伊藤計劃の前作「虐殺器官」がたいへん素晴らしい作品だったので,
この第2作であり,最後のオリジナル作品も期待して読んだ.
しかし,正直にいうと期待を持ちすぎて読み過ぎたせいか,
ちょっと「甘い」という印象が残った.

まずは主人公が女性というのが,
感情移入できない理由のひとつだったのかもしれない.
3人の女性の友人関係がこの作品のキーとなるのだが,
いまひとつ共感できなかった.
また,そこから導き出される結末も
もっとハードボイルドなものがよかったような気がする.

しかし,さすがに日本SF大賞受賞作品.
また,フィリップ・K・ディック審査員特別賞をとるだけのことはある.
いろいろと考え抜かれた設定が興味深い.

人間の尊厳とはなにか.
意識とはなにか.
そうした問いに対する答えが
設定された異常な世界で展開していく.
SFというジャンルでなければ,
このような特殊な状況下での
テーマは書けないのだ.
この作品は,ちゃんとそうしたSF文学たる要求に応えている.

私としては,もっと圭角のある「虐殺器官」の方を好むが,
この作品自体の面白さは,やはり否定しようがない.
つくづく伊藤計劃という作家の才能と,
その早すぎる死を思う.

#しばらく前に読んだ作品なのだけれど,
ようやく感想が書けた.
「虐殺器官」からおよそ半年後に読んだことになる.

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