2019年6月22日土曜日

暑くて湿ったこの季節,ドライなカクテルが美味しい

長岡に来てのち,腰を痛めてしまい,なかなか生活の中に楽しみを見つけることが少ないのだけれど,最近は週に一度のスーパー銭湯通いとお酒をなによりの楽しみとしている.

お酒は量を飲まないので,自然と美味しいお酒を少量というスタイルになって,バーに行くこともしばしばとなった.

とはいえ,カクテルもウィスキーも味がよくわからず,うまいかうまくないかくらいしかわからないので(それも自分の感覚だし),全部バーテンダーさんにお任せなのだけれど,それでもいくつかのカクテルの名前くらいは知っている.でも,それはなんのことはない,映画や歌,小説などにそれらが出てくるからなのだ.

例えば,小説.レイモンド・チャンドラーの「The Long Goodbye」の有名なフレーズ.「ギムレットには早すぎる」.すべてが明かされたあとで友がマーロウにいうつらいセリフだ.

歌だって,例えばRCサクセションの「雨上がりの夜空に」.「ジン・ライムのようなお月さま」というフレーズが出てくる.松田優作の「横浜ホンキー・トンク・ブルース」では,ヘミングウェイにかぶれちゃった女が飲む酒は,もちろんフローズンダイキリと歌われている(正直に言うと私もそんな時期があった.自由が丘のバーでよく注文していたのが恥ずかしい).

松田優作といえば,映画「野獣死すべし」で刑事の室田日出男に向かって話すリップ・ヴァン・ウィンクルの話の中で主人公が飲むカクテルは,xyz.「これで終わりって酒だ」と言って松田優作が室田日出男に銃爪を引くシーンが忘れられない.

そして映画といえば,私の大好きな007.映画ではいつもウォッカ・マティーニをジェームズ・ボンドが頼むシーンが出てくる(ダニエル・クレイグが演じるようになってからは,Vesperという名前がついたカクテルになっている.オリーブの代わりにレモンピールが添えられる).

Vodka Martini, Shaken, not stirred
彼はいつもこう頼む.「シェイクして.かき回さないで」
不思議なのは,ちょっと考えるとこのカクテルはステアするのが普通そうなのに,わざわざシェイクを頼むところである.まぁ,そこであえて逆に注文するのが,ジェームズ・ボンドのボンドたる所以なのだろうけど.

でも,007の映画でのシーンがあまりにも有名だから,いまではウォッカ・マティーニを頼むとシェイクして出してくれるバーも多いと聞く.

ということで,先日長岡のバーでウォッカ・マティーニを頼むときに,ジョークで「シェイクではなく,かき混ぜてお願い」と言ってみたのだけれど,「最初からステアのつもりでした」と笑われて,冗談を解してもらえなかったようだった(というか,この手のジョークにはもう付き合い飽きていたのかもしれないけど).ちょっと恥ずかしかった.

暑くて蒸す季節がやってきた.こうした季節にはキリッと飲めるドライなカクテルが美味しい.

2019年6月3日月曜日

手に入れようとすると,手の内から逃げてしまうもの

手に入れようとすると,手に入れられなくなってしまう.あるいは,それが損なわれてしまうものがある.

ハリー・ポッターの中に出てくる賢者の石もそうだった.使いたい者には賢者の石は見つからない.ただ見つけたいと思っていたハリーのズボンのポケットには,いつの間にかそれが入っていた.

村上春樹の小説の"Seek and Find"もそうだ.主人公が見つけたときにはそれはすでに損なわれている.あるいは失われてしまっている.鼠も会えたときには死んでいた.キキも殺されてしまっていた.失われた友情.愛.

メーテルリンクの「青い鳥」もそうかもしれない.幸せの青い鳥は探しに出ても見つからなかった(この場合は,身近にいたことを知るのだけれど).

「求めよ,さらば与えられん」で済まないことも多々この世の中にあるということを教えてくれる.それを求めようと「ギラギラ」しても(「ガツガツ」しても),それがかえって欲しいものから自分を遠ざける.

では,どうやったらそれを得られるのか.私も教えてもらいたいと思っている.ただ,それにふさわしい者になれば,欲しいものは向こうからやってくるのかもしれない,とは思っている.

あるいは,他人に理解されないような努力をすることがよいのかもしれない.映画「フィールド・オブ・ドリームス」の主人公のように,とうもろこし畑に野球場をつくるような馬鹿げた努力が.

映画はいろいろと教えてくれる.それが本当のことか,単なる夢想なのかはわからないけど.

言葉が世界を単純化することの副作用

 人間がこれだけの文明を持つに至った理由のひとつは「言葉」を用いることであることは間違いないと思う。「言葉」があれば正確なコミュニケーションができるし、それを表す文字があれば知識を記録として残すことも可能である。また言葉を使えば現実世界には存在しない抽象的な概念(たとえば「民主主...