2011年7月27日水曜日

地熱発電普及の問題は


大震災以来,原子力の代替エネルギーの議論が
活発に進められているが,地熱発電に期待する意見も多い.
しかし,現在の地熱発電の総設備容量は53.5万kW程度と,
2000万kWを越える推定資源量に対して,たいへん小さい.

私も地熱発電には詳しくないのだけれど,
その普及が進んでいないということは,
なにか障害があるということなのだ.

今月の雑誌「OHM(オーム)7月号」(オーム社)の特集は
なんと「地熱発電」である.
「地熱発電Q&A20」という記事で,基本的な疑問が
部外者である私たちにもたいへんわかりやすく説明されている.

詳細は記事を読んでいただくことにして,
地熱発電の普及を妨げている障害
次の3つであることが述べられている.

1) コスト
2) 国立公園
3) 温泉

(このほか建設までに長い期間を要することも
問題としてあげられているが)

第1に,コスト問題であるが,地熱発電の場合,
その5割が掘削コストによって占められるのだという.
まず掘削してみなければ分からない部分もある.
掘削してみて「はずれ」ということだってあり得る.
地下データの少ない地域では5割近くの失敗井が
生じてしまっているとのことである.
そのたびに数億円の損失が生じるのである.

また,地熱資源がうまく発見できたとしても,
蒸気を取り出す井戸や,水を還元する井戸は,
通り道が詰まってしまうので,2~3年ごとに
1本程度井戸を掘り直す必要があり,そのコストも
必要である.

とはいえ,一度資源を手に入れて,
うまく運用さえすれば,燃料費は不要なので
ランニングコストは低く抑えられ(追加掘削費),
結局発電コストは13~16円/kWhとなるのだという.
(資源エネルギー庁の1993~2004年の平均値のデータであると
記事には紹介されている)
太陽光発電のコストが50円/kWh以上であることに比べ,
十分に低い
しかし,それでも他の火力,原子力に対しては
コストが倍以上も高く,現在の電気料金では
採算がとれず,たとえ固定価格買取り制度が採用されたとしても
20円/kWhの買取り価格設定でも,採算がとれる発電所は
少ないだろうとしている.


第2に国立公園問題.
1972年の旧通産省と旧環境庁との覚書により
国立公園内には地熱発電所を新規に建設しないことになっており,
これによって,地熱資源量の8割以上が使えない,とのことである.

第3に温泉問題.
温泉資源の枯渇の恐れより,地元に反対運動が起こり,
建設が進まないとのことである.
実際には,うまく運用すれば温泉資源の枯渇は免れるとのことだが,
地元の反発が大きければ,やはり建設はできないのである.

コストの問題は,技術的なことであって,
今後将来改善される,
あるいは状況が変わる(電気料金が高騰するとか)
こともあり得るので,継続して研究開発が
進められるべきだと思うけれど,
国立公園問題,温泉問題については,
なかなか難しいのではないかと思う.

地熱資源が豊富に存在し,
そして技術的に(コスト的に)成立するようになっても,
利権が絡めば,事は進まないのである.
この問題が解決されない限り,地熱発電の普及は
進まないだろう.

そんな社会的な問題はなんとかできる,という人が
エコ推進派には多いけれど,地元の人たちの同意と
協力を得るためには,長い時間がかかり,
やっぱりこうした問題はたいへんに難しいのである.
(浮体式の洋上風力発電なども話題だが,
技術的には可能であるけれど,日本では
漁業権の問題があって,地熱発電同様に
難しいのではないかと私は思っている)

しかし,日本が地熱資源に恵まれていることは間違いがない.
社会的状況が変わることもあり得るだろう.
研究開発は粛々と進めていっていただきたいと思う.

#7月号のOHMでは,もっともっと詳しく
あるいはわかりやすく地熱発電について
説明されている.
代替エネルギーを議論するならば,
最近のOHMをまとめて読まれるだけでも
ずいぶんと勉強になるので,おすすめである.

#7月号のOHMでは,小水力発電についても
特集記事が掲載されている.
こちらもやはりコストが見合わないのが問題.

3 件のコメント:

  1. 『OHM』の7月号〈特集:地熱発電〉を私も読みました。地熱発電はクリーンで天候に左右される事がなく24時間(夜間でも)安定して電気が発電できるというのに我が国で開発が進まないのはもったいないことだと思いました。
    地熱発電所の建設可能な場所の81.9%が国立公園の中で、そこを国が規制をして地熱発電をできなくしているのは問題ですね。しかも事業仕分けで開発予算を大きくカットしています。
    温泉の枯渇も実は誤解で、日本で枯渇した例は一例もなく、そもそも温泉と地熱発電の貯留層の深さが違うので影響はないようですね。
    しかも地熱発電は燃料価格がタダなので、ランニングコストが安く長年使用する事によって「6円/kWh」(p.20/江原)にまで下がっている発電所もあると記載されています。

    co2や高濃度放射性廃棄物をはじめとする放射性物質、資源の価格高騰、枯渇の心配のない地熱発電を発展させることは、次世代、いや百年後、千年後の未来の人々のためにもなる技術だと思います。

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  2. 地熱発電が今後普及するかどうかは,政府などの補助金によるのではなく,補助金無しでも採算がとれるかどうか,のコストダウンにかかっていますよね(太陽光の普及は補助金に頼るところが大きいので私はかなり危惧しています).確かに発電コストが低くなっている地熱発電所もあるようですが,新規に建設してその採算があらかじめとれるとわかるような適地はなかなか無いようです.いずれにしろ,利益がでるとなれば,民間企業が参入するでしょうから,技術の進展とコストダウンを期待したいと思います.

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  3. 高温岩体発電など地熱の新技術についてのリンクを張っておきます。
    1章の12-13頁を見ると、地熱発電、高温岩体発電の開発に適していと考えられる場所が、日本に広く分布しているのが判ります。

    既存の地熱発電を開発するにしても適地の81.9%が国立公園として国の環境規制で建設ができない状態で、(『ohm』2011/7/p.22)残りの2割以下の場所では温泉業者の反対にあっているという状態があります。

    採算が合うようにするには、思い切った国の規制緩和が必要不可欠です。でも、なんで国は地熱発電に対して、このような厳しい規制をしているのでしょうか?

    クリーンで燃料がいらない上に、安定した発電ができるのですよ。

    http://criepi.denken.or.jp/research/review/No49/index.html

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