2023年4月30日日曜日

アトミック・ブロンド Atomic Blonde

 シャーリーズ・セロンという俳優は私にとってとらえどころのない女性で,どこに特徴があるのかが(どこに軸足を置いているのか)はっきりしない。映画「スノーホワイト」では悪の女王だったし,「モンスター」では殺人犯を演じていたというし,ときには「アダムスファミリー」のようなコメディやホラーにも出演している。どんな作品にも対応できる素晴らしい俳優であることは間違いないのだけれど,〇〇俳優と分類することは難しいようだ。

今回見たのは「アトミック・ブロンド」。セロンは主人公のスパイを演じていて,これは完全にアクション映画なのである。アクション映画といえば,彼女は「マッドマックス」にも出演していたけれど,今作ではジョン・ウィックばりの戦闘アクションを披露している。というのも監督はジョン・ウィックのアクションコーディネータのデヴィッド・リーチなのである。セロンは,ジョン・ウィック2の主演のキアヌ・リーブスと一緒にアクションのトレーニングを受けていたとか。それで納得。とにかくセロンも身体を張ったアクションにチャレンジしている。そしてそれらがキレッキレ。本当に素晴らしい。

映画の舞台は,1989年のベルリン。強烈な80年代ポップスの曲をBGMに次々とスタイリッシュな画が続く。アクション映画の王道を行く作品で,頭を空っぽにして楽しめる作品である。ただし,セロン演じるこのスパイは笑わない。一方で,ファッションからセリフまでななにからなにまでスタイリッシュ。立ち居振る舞いも美しい。だからこそ彼女の吐く皮肉が厳しい。。。

とにかくセロンの鍛え抜かれた身体によるアクションを楽しみたい。近接格闘のシーンは特に魅力的である。評価は星3.5(満点は5つ)

#シャーリーズ・セロンは壮絶な人生を送ってきたことでも知られる。興味のある人はぜひ彼女の経歴を調べて欲しい

2023年4月29日土曜日

今年の目標:姿勢を正す

 今年の目標のひとつに,「姿勢を正す」ということを挙げている。私が稽古している合氣道では特に「正しい姿勢」ということを重視するので,それほど短くはない期間稽古している私としては(そして,それなりに指導している身としては),「いまさら何をいう」というテーマではあるけれど,正直にいうといまだ手探りで「正しい姿勢とはなにか」を探っているのである。

「正しい姿勢」の定義として,「長時間保つことができる姿勢(リラックスしている)」,「安定した姿勢(どこにも力が滞っていない)」などが考えられるのだけれど,私がこれまで「そうだ」と思って取っていた姿勢ではまだ不十分ではないかと昨年末から思い,それ以来工夫をし続けている。

数十年稽古を続けていたのに,なぜ今になってそう思い始めたかという理由は,「内臓への負担」である。昨年,今年と身体,特に内蔵の不調が続いていて,腹部の痛みを緩和しようとするために姿勢を工夫していたら,今までの姿勢に比べてより内蔵に負担がかからない,楽な姿勢があることに気づいたのである。その姿勢をとるとたしかに腹部が楽になるように感じる。

この姿勢が正しいのではないか,と考える理由のひとつが,「首が安定する」ということである。これまでの姿勢でも首が十分に安定であると思っていたのだけれど,強く「突き」を行ったときなどに首から頭にかけて反動が伝わっていた。サンドバッグなどを強く打つとそれなりの反動を首が受けていた。そして実は普通に空突きをしても反動がある。それが普通だと思っていたから気にもしなかったのだけれど(昔は首も鍛えていたから),上記の姿勢を工夫するようになって首がより安定して,反動の衝撃が小さくなることに気づいた。これはいい。インパクトを考えていろいろな種類の突きを試すのだけれど,どの突き方においてもより首が安定するような気がする。

具体的にこの姿勢を言葉で表そうとするならば,「背骨が立っている」ということだろうか。「仙骨を立てて,背骨も立てる」。もう何十年も聞き続けている言葉であるけれど,いかにこうした感覚を人に伝えることが難しいかということをあらためて思う。中国武術でも「立身中正,沈肩墜肘,含胸抜背,尾閭中正」などというけれど,自分がとっているものが本当の正しい姿勢がどうなのかはわからない。本当に正しいという感覚は自分で比べることができないからだ。

結局,武術の世界においては,「正しい」姿勢・動作というものを手探りで探っていくしかない。たとえ師匠が言葉で,そして身体で示してくれたとしても,自分は師匠とは思考が違い,経験が違うためにはじめから同じことを行うことはほとんど不可能である。「最高」の姿勢や技を身につけることはたいへんに難しいのだ。でもだからこそ,武術は面白い。武術を学ぶということは,師匠の教えを理解するために,そこにある哲学,そして文化的背景を学ぶことであり,答えは自分で見つける作業なのだとつくづく思う。

#以前に武道の先生から私にいただいた年賀状に書かれていた言葉が身に沁みる。稽古は常にふりだしから始まる。

「稽古とは,一より習ひ十を知り,十よりかへるもとのその一」

2023年4月23日日曜日

ジョン・ウィック チャプター2:ジョン・ウィックの怒りが頂点に達する

 ずいぶん前に観たジョン・ウィックシリーズ第2作目

「ジョン・ウィック チャプター2」(監督:チャド・スタエルスキ,主演:キアヌ・リーブスj,2017年)

相変わらず素晴らしい世界観であり,その中でジョン・ウィックは輝いている。妻との思い出を守るために,どうにもならないシガラミの中で一度引退した殺し屋の世界に彼はまた戻っていく。

アクションの白眉は美術館における戦闘シーンからの流れで,ガンフーが冴えまくり,鏡張りの迷路の中での戦闘は「燃えよドラゴン」のラストを思い起こさせる。またルビー・ローズ演じる殺し屋とのやり取りも重くならずあっさりと終わるところが素敵である。全体的に一作目にくらべ,アクションシーンはぐっと迫力を増している。また次作以降につながる今作の結末にはぐっときてしまう。

またジョン・ウィックの殺し屋世界のディテールも更に掘り下げられていて,例えばローマで武器を揃える際にソムリエが登場するシーンなどは,ユーモアもあってすごくワクワクした。

殺し屋世界の幅が広がり,ジョン・ウィックのカルマはまた深くなっていく。それがこの2作目なのである。

私の評価は,星4.5 ★★★★+★/2+☆/2(星5つが満点)

#本作の最初で,鉛筆1本で3人を殺すエピソードを話すヴィゴ(1作めの悪役)の親戚のボスは,(たぶん)キアヌ主演の映画「コンスタンティン」のルシファー役の俳優である。いい感じ。

#本作でジョン・ウィックと死闘を繰り広げる殺し屋カシアンは(たぶん)映画「グランド・イリュージョン」のFBIの上司役の人である。こちらもいい感じ。

#コンチネンタルホテルのコンシェルジュ役の俳優の突然の訃報を聞いた。死因は「自然死」なのだという。よくわからないけれど,彼の役は素敵だっただけに今後彼が出演しないのは悲しい。。。

2023年4月22日土曜日

村上春樹の比喩と川島明のツッコミ

 村上春樹の新作「街とその不確かな壁」が出版されたということで,出版業界としてひさびさのヒット作になるかどうかが注目されている。長編としては「騎士団長殺し」以来だろう。

こうみえて私は村上春樹の作品は好きだったので,たぶんすべての長編は読んでいると思うのだけれど,ワタシ的には「海辺のカフカ」を頂点として,だんだんその魅力が薄れている印象だから,本作ではぜひ面白さを復活して欲しいと思っている(あくまでもワタシ的に。1Q84は少しよかったのだけど...)。

さて,村上春樹といえば話法が特徴的だけど,今話題のAIなど使えば「村上春樹風」の文章を短時間に好きなだけ生成してくれるだろう。たぶん。たとえば僕がスパゲッティを茹でる間に。そしてやわらかな春の雪が地面にふりつもるように気づかない間に驚くほどの量を。君が考えるほど少なくない人数の人間が,私のこのブログも彼の影響を受けていると口をそろえていうに違いない。やれやれ。

ただ,村上春樹の独特な喩えについてはどうだろう。AIはうまく模写してくれるだろうか。たとえば,「広々としたフライパンに新しい油を敷いたときのような沈黙がしばらくそこにあった」とか,「私の頭は夜明けの鶏小屋のように混乱した」みたいな比喩を。こんな発想,AIには難しいのではないだろうか?意図なくランダムに語句を並べることはできるだろうけれど...

村上春樹の比喩は,ときに突飛で笑いの成分も多く含まれる。そんなことを考えていたら,これは俗にいう「お笑いの喩えツッコミ」にとても近いのではないかと思いついた。ダウンタウンの松本人志とか,フットボールアワーの後藤輝基とか,本当にうまいなと思うのだけれど,そうした変な喩えと村上春樹の喩えには共通点があるのではないだろうか。たとえば全く異なる例にたとえて,「そんなんXXXXくらいXXXXやんか」(良い例が思いつかなくてすみません)というツッコミで笑わせるところなんて,ハルキミ(春樹味)を感じさせる。

私が好きなお笑いの人のひとりが最近快進撃している麒麟の川島明である。「ラヴィット!」とか大好きなのだけれど,彼の比喩の瞬発力も秀逸である。IPPONグランプリを観ていても,「おもしろさ」と「感心」が共存している回答が多くて,彼の才能の素晴らしさに感嘆している。そして彼の「喩えツッコミ」も素晴らしいのだ。

こう考えると,村上春樹も瞬発力さえあればお笑いもイケるのではないか,なんて思ってしまうけれど,それはやはり妄想でしかない。彼の新作を読むのはいつのことになるかわからないけれど,今度は作品の中に出てくる比喩を数えながら読んでみたい。ただ,彼も年齢を重ねるにつれて,変な比喩は減っているように感じられるけど。。。

2023年4月16日日曜日

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

 映画を見終わったときに,タランティーノは何をこの映画で描きたかったのだろう,と思った。ディカプリオ演じる俳優とブラピが演じるスタントマンとの男の友情なのか,それともその時代のハリウッドの夢のような情景なのか,正直,よくわからない。まぁ,彼の作品はどれもそんな感じで,単に楽しめれば良いということなのかもしれないけれど。なぜか彼の以前の作品である「デス・プルーフ・イン・グラインドハウス」を思い出した。

ディカプリオは全盛を過ぎた西部劇の,彼自身も全盛期を過ぎた俳優を演じていて,その辺の悲哀,情けなさがよく伝わってくる。結局,マカロニ・ウエスタンの作品に何本か出て引退を考えるのだけれど,彼が踏ん切りをつけるまでのゆっくりとした心境変化が見ているこちらにもつらい。

一方,ブラピが演じたスタントマンの役は,先のことはあまり考えていない少し現実感がない男で(映画を観ながら,「もっと生活のことを考えろよ!」と思ってしまった),スタントマンとしてはたぶん信頼できる,義理堅いタフガイなのだろうけれど,どこか浮世離れして足が地についていない感じ。ディカプリオとの友情があるのか,ないのか,よくわからないふわふわとした少し不思議な関係が,その時代の夢「ハリウッド・ドリーム」を映し出している。

マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートは,実際には知る人ぞ知る(私ももちろん知っていた)カルト教団の惨殺事件の被害者であるけれど,この映画ではそうした結末にならない異なる世界線の話になっていて,彼女がシンボルとなっているハリウッドの夢は最終的に守られることになる。そこにタランティーノの夢が投影されているのだろう。私もこの結末には幸せを感じた。彼女は本当に夢のようなチャーミングさを体現していて,本当にそんな人がいたのであれば,周りの人は好きにならずにいられなかっただろうと思う。そういえば,「デス・プルーフ...」にも,青い目をしたブロンドのお人形のような女の子が出演していたように思うけれど,タランティーノにとって彼女たちは夢の象徴なのかもしれない。

一方,この映画でちらりと出てくるブルース・リーの描かれ方はひどくて,遺族などが映画会社に抗議したというのもよくわかる。口ばっかり達者なひ弱な東洋人でしかない。現実は違うのだろうけれど,その当時ハリウッドからみた彼のイメージとはそんなものだったのかもしれない,と思わせる。

とにかく,観てなにか感動する,といった映画ではないけれど,ところどころに見どころがある映画だと感じる(タランティーノらしい)。たぶん映画マニア向けなのだろう(私は違うけど)。タランティーノはあともう少しで引退すると言っているけれど,まだまだ頑張って欲しい監督なのは間違いない。

2023年4月9日日曜日

就活で行きたい企業を決めるには?(3) 結局,「自己分析」と「企業研究」

就活において希望企業を選ぶのに際し,「名前」ではなく「希望条件」で決定したほうが良いという話の続き。すなわち,

  1. まず自分が働くにあたり企業が満たしておいて欲しい条件を思いつくだけ挙げる
  2. 次に同じく自分が働くことにおいてイヤなことを思いつくだけ挙げる
  3. 希望条件,拒絶条件に優先順位をつける
  4. そして,これらの条件を満たす企業を「名前」ではなく,「条件」から探す

という方法を学生のみなさんに提案している。すると,条件をどのように決めるか,ということを質問される。

希望条件は,そんなに難しく考える必要はなく,まずは思いつくままに挙げてみよう。たとえば「自分のやりたいことに関連した職」,「大学の研究の延長線上の内容」,「社会貢献が目に見える職業」などの仕事内容にかかわる条件から,「福利厚生(寮がある)」,「転勤がない」,「自宅の近く」などの環境に関する条件も考える。気軽に思いつくままリストアップしてみよう。

「自分は人生でなにをしたいのか?」,「なにが天職・適職なのか?」などと大きなところから考えていくと,なかなか条件が見えてこない。もっと身近な実感できるところから条件を考えてみよう。たとえば,「どんなことをしているときにワクワクするか」,「自分はどんなことを苦にせず当たり前のように続けているか」,「どんな余暇を過ごしているか」のように具体的に考えてみる。そんなふうに,自分が「できること」そして「幸せを感じること」がなにか考えてみることはそんなに難しいことではないのではないだろうか。

この条件を検討することは,「自己分析」,「企業比較」をすることに他ならない。残念ながら面接試験に落ちてしまう学生をみると,この「自己分析」,「企業研究・比較」が十分ではない学生が多いようである。「自己アピール」をする前に自己分析を,「会社を選んだ理由」を考える前に企業研究を,行って欲しい。その努力をちゃんとした学生は内定をもらう確率が高いようである。

5年後,10年後,自分はどんな自分になっているのかイメージできること,そしてそのためにこの企業に入るとどのようなことができるのか,よく考えてみてはどうかなと思う。

まぁ,こんな話はどの就活支援企業も話していることであるので,そんなの当たり前と思う学生も多いことと思う。でも,それを十分に検討するのには心理的ハードルがあることをまず知ってほしいと思う。たしかに何かを選択することは,他の選択肢を捨てることになるので,それはつらいのだ。でも,就活はその選択をするタイミングなのである。

2023年4月8日土曜日

就活で行きたい企業を決めるには?(2) 働く条件を考えて希望企業を選ぶ

 就職活動において,希望企業を「名前」で決めるとあとあと大変なことになりうるという話を書いた。簡単にまとめると,

  • 希望企業を落ちてしまったときに次の企業を見つけられない
  • 企業比較を十分にしないで面接試験に臨み,失敗してしまう
  • 希望企業に採用されたとしても働いたのちに「これで良かったのか」と悩んでしまう

などといった懸念がある。たとえ希望通りの企業に採用されたとしても,他の選択肢はなかったのか?A社ではなくB社にすべきだったのではないか?などと考える人も多いのではないだろうか。

これらの懸念,不安を取り除くにはどうしたらよいのだろうか。その解決策は,単純明快,十分に検討して希望企業を決めることである。といっても,どのように検討したらよいのか,どこから手を付けたらよいのか,わからない学生が多い。そこで私は次のように提案している。

  1. まず自分が働くにあたり企業が満たしておいて欲しい条件を思いつくだけ挙げる
  2. 次に同じく自分が働くことにおいてイヤなことを思いつくだけ挙げる
  3. 希望条件,拒絶条件に優先順位をつける
  4. そして,これらの条件を満たす企業を「名前」ではなく,「条件」から探す

のである。たとえば良いも悪いも含めてこれらの条件が20個あったとする。A社はそのうちの18条件を満足する,そしてB社は16条件を満足する,とすると,A社を第一希望にすればよい。たとえA社に落ちてしまったとしても,次はB社,そしてC社と納得して,企業を選ぶことができるのである。

この方法ではいかにこの条件を具体的に,深く検討するか?ということがキモである。では,今度は条件の考え方について考えてみよう。>>続きは次の記事で。


2023年4月2日日曜日

2023年のエイプリルフール

 昨日(4月1日)に書いた内容は実はエイプリルフールの冗談です.<最近目にしたのは,>以降のグリッド・ファイティング・インバータの段落はほとんどウソです(0.4Hzの電力動揺はホント)。その他の段落はほぼ本当のことを書いていますが。。。

ウソだとわかるように,「グリッド・ファイティング・インバータ」というウソっぽい名称も使ってみましたが,今年はウソであることを本当のことに混ぜて書くことに罪悪感を感じました。

相変わらず一般受けもしないし。来年のエイプリルフールはもっと冗談らしい冗談をつきたいと思います。



これまでのエイプリルフールのウソ

2023年4月1日土曜日

グリッド・ファイティング・インバータ

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーの分散電源が電力系統に大量に導入しなければ,2050年のカーボンニュートラルは実現しないであろうことは誰でも知っている。しかし,これらの分散電源は,従来の「お湯を沸かして蒸気でタービンを回し,回転機である発電機で発電する」という方式ではなく,それらのほとんどが半導体電力変換器である「インバータで発電電力を変換する」という方式を採用しているために,これまでと違った問題が電力系統に引き起こされることが予想されている。

たとえば,そうした問題の一つが「慣性の不足」である。電力系統で発電所が脱落する(系統から解列する)などの事故が起こった場合,これまでの電力系統では電力の変動に応じて,回転機である発電機が加減速することによってその急激な変動を吸収し,電力系統の周波数がゆっくりと変化するようになっていた。この周波数の変化率を緩和する効果を系統の「慣性」と呼ぶ

しかし,インバータで電力を変換する方式では,電力変動を吸収しようにも回転機ではないので,変動が起きようとも指令値にしたがった電力を出し続けようとする。すなわち,急峻な電力変動は緩和されず,周波数は過渡的に大きく変化することになってしまう。こうした急速で大きな周波数変動が起こってしまうと発電機は自分の身を守るために電力系統から解列してしまい,最悪,広域の大規模停電につながるおそれがある。

これは回転発電機(同期発電機)と違い,インバータが電力指令値(電流指令値)によって制御されているからで,これらのインバータを電力系統の電圧と周波数に従って電流を制御していることから,グリッド・フォローイング・インバータ(Grid Following Inverter, GFL)と呼ぶ。GFLは電力に動揺が発生しようが,われ関せずと指令値にしたがった電力を出力しつづける。だから,従来の同期発電機に代わって分散電源が大量に導入されて,同期発電機の割合が少なくなってしまうと,慣性の効果が小さくなって系統は不安定になる。

一方,この問題を解決するために,従来の発電機と同様に自分で電圧振幅と周波数を決定して,たとえ自立してでも電力系統を構成し運転を継続できるような機能を制御によって付与したインバータが研究されている。これらは,グリッド・フォーミング・インバータ(Grid Forming Inverter, GFM)と呼ばれている。代表的なものに,同期発電機を模擬した挙動をするように制御される仮想同期発電機(Virtual Synchronous Machine, VSG)制御が挙げられる。VSGインバータは電力貯蔵装置などを用いて慣性を持たせることができるので,系統の安定化に貢献できると期待されている。

さて,GFLやらGFMやらとややこしいのだけれど,その他にも電力系統を安定化するように電力(有効電力,無効電力)を出力(あるいは吸収)するように制御されるインバータが機能別に分類されていて,これらは電力系統をサポートするということで,グリッド・サポーティング・インバータ(Grid Supporting Inveter)と呼ばれている。

最近目にしたのは,グリッド・ファイティング・インバータ(Grid Fighting Inverter, GFT)である。Fightingというのはどういうことかと思って調べてみると,どうもそれは電力系統の電力動揺を打ち消すようにはたらく機能らしい。過渡的な電力動揺だけでなく,系統が基本的に有している共振要素に起因する振動に対しても効果があるのだという。日本において,西側60Hz系統においては,約0.4Hzの電力動揺が常時継続していることはよく知られている(?)けれど,こうした広域の動揺に対しても安定化効果を有するらしい。フェイザー計量器(Phasor Measurement Unit, PMU)を用いた広域同期制御が特徴のようである。確かに将来的には広域の系統制御にもGFMは使用されるべきであろうとは思うけれど,誰がそのコストなどを負担するのか,技術的だけではなく社会的な問題も絡んでいて実現までには遠いかな,とも思う。

とにかく現在GFMは注目されていて,電気学会の全国大会や部門大会では半日という長い時間をかける関連セッションが3つほども開催されるほどである。ただし,上記のようにいまだ概念が整理されているようではないようだ。技術の黎明期にありがちな状況である。こうした概念を整理していくのも,学会そして我々のような研究者の役目と言えるだろう。

この記事の続きはこちらから。必ず読んでいただきたい(4月2日公開予定)。


ネットの書き込みは年寄りばかり

SNSというのは大変面白い。たとえば、テレビでは番組に対する視聴者の反応がわからなかったものが、今ではコメントが書き込まれることによって反応をいくぶん知ることができる。あるいはXなどへの書き込みによって、リアルタイムで感想がタイムラインにあふれることになる。そうした双方向性、即時...