今回はマニア向けの記事です...こんな話はもう誰でも知っているのかと思っていたけれど,いまだにネットではときどき話題になっているようなので,記事にしてみました.
心身統一合氣道の宗主であった藤平光一先生の動画がYoutubeなどのサイトに,いくつかアップされているのだけれど,その中でときどき話題になるのが,柔道着を着たどうみても素人の外人と藤平光一先生が取っ組み合っている動画なのである.
この動画は白黒で画質も悪いのだけれど,まだ若かりし藤平先生が大柄の外人と組み合って,彼を少々もてあましながらも何度も尻餅をつかせ,最後は柔道の締めのような形で外人を抑えて終わりとなるという珍しい記録映画の一部である.
ちょっと見た感じには合氣道のスマートさが見られないし,確かに最初藤平先生も手こずるところもあるのだけれど,この映像を見て,「真剣勝負」とか「実戦」とか言って,合氣道の技術を論じる人がいるのにびっくりするのである.どうみても藤平先生が相手をこわさないように,「相手をしている」ように思えるのだけれど...
まぁ確かにこの動画を見て,合氣道は大丈夫か,と思う人もあっておかしくないとも思う.実は1991年のアメリカの雑誌「Black Belt 6月号」(102ページ)の読者投稿欄においても,この動画を見たであろう読者から,"Will Aikido Work on the Street?"というの手紙が載っている.投稿者は,技術の無いニュースレポーター相手にこの様子では,実際のストリートファイトの現場で使える合氣道の技は何年経ったら身につけることができるのだろうという疑問を呈していたのである.
この疑問に対しては,同じ年の「Black Belt 10月号」(90ページ)において,武道ライターのDave Lowry氏が,このアメリカのテレビ局クルーによって1958年に撮影された動画の背景を説明する形で,回答,解説をしている.記事の内容は,日本人はなかなか気分良く読めないものなのだけれど,とにかく藤平先生はこのアメリカ人記者ハーマン氏を傷つけないためにどんな危険な技を使わないという約束のもと試合をした,ということはちゃんと書かれている.つまりは,そういう制約の中であのように立ち合ったということなのである.
真面目に試合をしていた,という意味では真剣勝負かもしれないけれど,あれを見て合氣道の技術を云々と批判するのはちょっと違うのかなと思う(藤平先生は,合氣道に「試合」は無いと明言されていたし).
本件については,日本の合氣道の先生もどなたか,雑誌かなにかのインタビューで,藤平先生が相手を傷つけないように大変苦労された,という話をされていた覚えがあるのだけれど,どこで読んだかすっかり忘れてしまった.
藤平先生はアメリカで合氣道のデモンストレーションをするときは,柔道の経験者を相手にされていたいという.それは投げたときに受け身ができるからであって,空手家は投げたときにケガをするかもしれないから困るとも話されていた.確かに演武をするたびに,相手を傷つけていたらアメリカでの合氣道の普及にはつながらなかっただろうなと,そのご苦労が偲ばれる.
いずれにしろ,あの動画の話は誰もが知っていることだと思っていたのだけれど,まだ話題に上っているようなので,ここにメモしておく.
#この動画はどこかのサイトで探してください(ナレーション付の動画であれば,ハンディキャップの話が聞けるかもしれません)
#Black Beltの記事は,Google Booksにリンクしておきました.藤平先生の記事は1962年1月号(創刊号?その頃は9段だと紹介されています.フラダンスが非常にお上手だったとの記述もあります)から何度も掲載されていて,いかにアメリカで注目されていたのか実感できます.
2012年9月4日火曜日
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