自分の好きなキャラクターを考えると,自分に足りないものが見えてくる,という話がある.
私の好きな人物というと勝海舟なのだけれど,その一方で西郷隆盛,山岡鉄舟といった幕末の偉人や剣豪 白井亨とかがいる.勝海舟を除いた人物に共通しているのは誠心誠意の人であるということである.これは自分自身よく分かる.私が誠心誠意の人に憧れるのは,私に誠の心が無いからなのだ.自分でもそう思っている.だからこそ,西郷隆盛の涙に泣き,山岡鉄舟の誠忠に憧れ,白井亨の愚直に我が身を正すのである.いつか,そう,人生を終えるときには,この人たちの足元に指先が届くくらいまでにはなりたいものだと思っているのである.
一方で,好きな小説の中のヒーローといえば,池波正太郎 「剣客商売」の秋山小兵衛である.尋常ならざる剣技の冴え,なのに清濁併せのむ度量の広さ,決して枯れていない人間臭さ.そこら辺にたいへんな魅力を感じる.私も武道に触れるものとしていろいろな剣豪の名前をあげることができるが,武道家としての理想は彼である.武蔵もいいけれど色がない.針谷夕雲もいいけれど豪放すぎる.秋山小兵衛こそが浮世と武道の世界のバランスがとれた武芸者なのだと思う.
さて,私は格闘技マンガも大好きなのだけれど,その中で一番好きなキャラクターはなんといっても,「北斗の拳」のラオウである.知っての通り,彼は「力の中に正義あり」を体現する剛拳の遣い手なわけだけれど,私は彼に一番の憧れを抱いている.そしてそう,彼の拳法こそ,私と真反対なところにあるのだ.結局,ないものねだりなのだ.私にはどう頑張っても彼のような剛拳を身につけることが出来ないだろう.だからこそ憧れる.あんな豪快な拳を振るってみたい.そして彼のような豪放磊落な一生を送ってみたい.そう思うのである.いまでもサンドバックを叩いていると,ついついラオウのような突きが放てないかと試してみてしまうのだ(そして拳を痛めてつらい思いをするのだが)
やはり私が好きなキャラクターには,私の憧れが投影されている.そしてそれは結局のところ私の無いものねだりなのだ.ただ私が最も好きな人物,勝海舟については無いものねだりでないことを祈っている.
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