私はカラオケに行くことがめったにない.誰かに誘われたときにだけ行くのだけれど,それでも「女の子がいるときしか歌わない」と逃げているので,歌うのは一年にだいたい一回程度である.社会人になった90年代からずっとこんな感じだから新しい歌を覚える機会なんてなく,私が歌うのはすっかり20~30年前の古い曲ばかりなのである.
だからカラオケに若い人が一緒だと選曲に困ってしまう.やっぱり彼らにもわかる歌を歌いたいとは思うのだけれど,小沢健二でさえ20代の若者にはわかってもらえない.そこでなんとかやっと歌うのがSMAPの「世界に一つだけの花」なのである.実は今夏も一回,この曲を歌っている.
しかし,この歌は歌ってみるとわかるのだけれど意外に難しい.最初から同じようなメロディーが何度も繰り返されるから,それらを毎回同じ様に歌ってしまうと,聞いている方も歌っている方もなにか飽きてしまうのである.つまらない.これを上手に聞こえるように歌うのは本当に難しいと思った.
SMAPが歌ってみんなを惹きつけることができるのは,同じようなメロディーが繰り返されても5人が歌い継いでいって,彼らの個性がそれぞれ現れるからなのだろう.私はこのことに気づいたときにラヴェルの「ボレロ」を思い出した.ボレロではメロディーが2種類しかない.これを最初から最後まで1回のクレッシェンドで何回も繰り返し続けるだけなのだけれど,次々と異なる楽器で演奏されるため音色が変わり最後まで飽きることがない.そう,「世界にー」は「ボレロ」なのである.
これを一人で歌って聴衆を飽きさせないことができるとしたら,それは相当の力量だと言える.そしてそれは私が知る限り,この曲の作者である槇原敬之である.彼の圧倒的な歌唱力はそれを可能とさせる.まだ他に彼ほどこの曲を「聞かせる」歌い手を他に聞いたことがない.
ということで,私がカラオケでこの「世界にー」を歌うとみんながつまらなそうになる.申し訳なく思うのだけれど,私が歌える歌の中で一番みんなが知っていそうな曲はこれなのだから仕方がない.私に槇原敬之の歌唱力を求めるのは無理なのだし.
2019年12月8日日曜日
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