昨日,川沿いの土手の上にある細い道を散歩していたら黒い蝶を見つけた。その道は両側に雑草が生い茂っていて人が通れる幅が狭く,そしてよくよく気をつけて地面を見ていないとオレンジと黒と白の派手な色の毛虫を踏みつぶしてしまいそうだったのだけれど,ふと目線を上げてみると黒い蝶が細道の真ん中をまるで私を道案内するかのように飛んでいるのに気づいたのである。
気になってその蝶を見ていると,しばらくまっすぐに道の真ん中を飛んでは左右の草むらの中に紛れてわからなくなってしまった。そこでまた私は毛虫に気をつけながら下を向いて歩いた。そしてふと目線をあげるとまた黒い蝶が私を導くように道の中央を飛んでいるのを見つけるのである。そんなことが3~4回繰り返された。
同じ蝶が私を導いているのか。そうも思ったけれど,同じ種類の違う個体の蝶だと考える方が自然である。
しかしそのとき,私は10年以上も前に亡くなった父のことを考えながら土手を歩いていた。だから,その黒い蝶はあちらの世界からやってきた私の父なのではないか,などと思ったのである。
小林秀雄がエッセイで,蛍が飛んでいるのを見て,自分の母親が蛍となって自分を訪れているのだと感得する話を書いている。死者が蝶となって自分を訪れる,というような話もどこかになかっただろうか。
蝶はなぜか,死者を思い起こさせる。そしてその後をついていきたくなってしまう。あの羽ばたきがなにかしらの催眠効果を与えるのだろうか。どんな理由でもよいけれど,蝶を見て昨日,私は父を思い出した。そしてそれによって心が慰められたのである。
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