2022年4月1日金曜日

仮想Siインバータ(Virtual Si Inverter)

 太陽光発電や風力発電が電力系統に大量に導入されるようになると,電力系統はいろいろな問題を抱えることになる。そのひとつが「慣性不足」である。

系統において発電機脱落や負荷変動などの擾乱が発生した場合には,電力の需給バランスが崩れてしまい,周波数が変動することになる。すぐに需給バランスがとられるように速やかに発電機の出力が調整され,系統の周波数は元の値に戻ろうとするのだけれど,過渡的には周波数は公称値から外れてしまう。このときの周波数の変動のしにくさを系統の「慣性」と呼ぶ。慣性が大きければ周波数変動の変化率が小さくなることになる。

従来この慣性は系統に並列された複数の同期発電機によって系統に供給されてきた。すなわち系統で電力変動が発生した場合に,同期発電機の回転子が加速したり減速したりすることで,その変動を(機械エネルギーとして)吸収し,周波数変化を緩和するのである。

しかし,太陽光発電や風力発電が系統に大量に接続されるようになると,この慣性が不足することになる。なぜならば,太陽光発電や風力発電は同期発電機によって発電するのではなく,発電された電力はインバータと呼ばれる直流/交流半導体変換器を用いて系統に供給されるため,系統で発生した電力変動を吸収することができないからである。

それを解決する手段として研究されている技術が「仮想同期発電機(Virtual Synchronous Generator, VSG)制御」インバータである。これはインバータの制御が高速であることを利用して,インバータがまるで従来の同期発電機のようにふるまうよう制御する手法である。このため,電力系統からみると太陽光発電や風力発電はこれまでの同期発電機のように扱うことができ,系統に慣性を供給することも可能なのである。

このようにVirtualで何かを実現しようという試みは,仮想現実だけでなくパワーエレクトロニクスや電力の世界でもなされるようになってきている。

<ここからが本題です。マクラが長い...>

そこで,今回はパワーエレクトロニクスに関する最新の仮想技術について紹介したいと思う。

近年では,従来のシリコンSiによる半導体素子(トランジスタなど)に代わり,SiC,GaNなどの次世代素材を用いた半導体素子による変換器が市場に現れてきている。これらの次世代素子は高耐圧,低損失,高速などの特徴を持つため,今後ますますの適用拡大が期待されている。

その「高速制御性」を活かした次世代インバータを用いて,仮想的に実現しようとしているのが,実は従来のSiインバータなのである。

Siに比べSiCやGaNを用いた素子は高速に動作でき,それらで構成されたインバータも高速に動作する。そこで,従来使用されてきたSi素子を用いて構成されたインバータ(Siインバータ)の挙動を,次世代インバータで模擬しようとするのが「仮想Siインバータ(Virtual Si Inverter, VSiI)」である。これによって,これまで安定に動作していたSiインバータと同様の特性を得ることができ(動作が速いのが良いとばかりは限らない),新装置との置換が容易となる。そのうえ,Si素子のオン・オフ動作(立ち上がり,立下り)を各次世代素子で模擬できるように検討されていて,これが実現できればほぼSiインバータを模擬できることになる。新装置への置換がシステムにあたえる影響がオンサイトで実測できるのである。

VSiIの研究はまだ始まったばかりで,携わっている研究者もまだ少ない。しかし,ニッチではあるが,そのニーズは高い。近いうちにパワエレの世界では常識になるのかもしれない。

#つづきはこちら(4/2以降)

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