その移動中の電車の中での話.
学生と読書の話になって,
私が再び読んでいる
"The Long Goodbye" (レイモンド・チャンドラー,村上春樹訳)
を紹介したところ,どうも学生の返事があいまいだった.
彼は,フィリップ・マーロウを知らなかった.
そこで,私はフィリップ・マーロウは
有名なハードボイルド小説の探偵であることを彼に説明し,
"If I wasn't hard, I wouldn't be alive.
If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."
「タフでなければ生きていけない.
優しくなければ生きている資格がない」
という有名な言葉を紹介した.
そしたら,学生と反対側の私の隣に座っていたおばさんが,
「ハハハ」
と笑い出した.私はびっくりして,
「どうしたんですか?」
と尋ねると,おばさんは,
「いまどき,そんなことをいう男の人がいるなんて.
ハハハ」
と笑う.私は,それは小説の主人公のセリフだと説明し,
本の中の"The Long Goodbye"が書かれた年をさがしてみた.
それは1953年だった.
おばさんは,そのころの男の人は,
そんなことをいったものだ,とまだ笑いながら言っていた.
私は,いまだに60年近く前に書かれた小説の
主人公に憧れているのだ.
そして,時代はずいぶんと変わり,
彼のセリフはもう笑い事にしか聞こえないらしい.
ハードボイルドも絶滅危機種に認定は確実である.
あぁ,昭和は遠くになりにけり.
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