将来の電力システムにおいては,風力発電や太陽光発電が大きな役割を果たしていくと予想されている(それが主電源となるかどうかは別にして).また総合効率を改善できる熱と電気を併給するコジェネレーションの導入も進んでいくことも間違いないと思われる.こうした電源は,従来の原子力,火力,水力などの集中型電源(Centralized Generation)に対して分散型電源(Distributed Generation)と呼ばれる.
分散型電源のメリットとしては,一般的に遠隔地にある大容量発電所から遠距離を送電するシステムである集中型電源に比べ,送電損失が少ないこと,発電時に発生する熱も利用できること,一般的に細かい制御が可能であること,などが挙げられる.一方,デメリットとしては発電ユニットが小容量であるためスケールメリットが活かせず発電の効率が低くなること(熱を併給して始めて総合効率が良くなる),コストが高くなること,ユーザーが設備導入の負担をしなければならないこと,などがある(太陽光発電はスケールメリットが出にくい発電方法なので分散型電源に向いているといえる.一方,風力発電はスケールメリットが出やすいので,近年ますます大容量化が進んでおり6MW級の洋上風力発電機なども登場している(EnerconとかAlstomとか.翼直径は126mにも達するらしい)).
さて,今回の話題は技術的な話ではなく,表記の問題である.英語ではDistributed Generatorであるが,日本語では,主に,「分散型電源」と「分散電源」の2種類の表記がある.どちらが正しいのか?
最初に結論からいうと,どちらの表記も正しい.
ただし,「分散型電源」と表記するのは,「電力・エネルギー分野」に多いようである(つまり,電気学会でいうと「電力・エネルギー部門(B部門)」).一方,産業分野では「分散電源」が多い(電気学会でいうと「産業応用部門(D部門)」).
この理由を私なりに考えてみると,電力分野ではまず「集中型電源」ありきで電力システムが構築されている.この「集中型電源」を電力分野の人が「集中電源」と呼ぶことはあまり多くないような気がする(他の電源と混同されるからかもしれない).「集中型電源」があるのであれば,当然対するものは「分散型電源」である.だから電力・エネルギー分野では,「分散型電源」という表記が多いのではないかと思われる.一方,産業部門ははじめから製品が「電源」である.発電所ではない.したがって,「集中型電源」の概念に縛られることなく,「分散電源」という言葉を使用しているのではないかと推測されるのである.
しかし,これはあくまでも表記が多いか少ないかの問題であって,電気学会 電力・エネルギー部門の論文誌のタイトルを見ても,「分散型電源」と「分散電源」が混在している.論文タイトルにおいてもそうなのだから,どちらの使用も電気学会としては認めていることとなる.
さらに「分散形電源」という言葉もあるけれど,使用例は少ないようである(使用している論文もあるけれど.実は私が共著者の論文タイトルは「形」を使用している).これは,半導体電力変換器の分野において,「電圧形変換器」,「電流形変換器」というものがあり,これらは「型」ではなく「形」を使うように統一されているからである.たぶんこれも正しいとは思うのだが...
ということで,今回は技術用語に関わる雑談でした.
#「超伝導」と「超電導」の違いとか,「レーザー」と「レーザ」の違いなども面白い.またいつか(あれ,すでに記事を書いたような...)
#ひなまつりが近いですが,あれは「人形」であって「人型」ではありません.あれも「ヒトガタ」という呪の話から始まって...と話が長くなりそうなのでまた別の機会に.
2012年3月2日金曜日
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エネルギー関係の研究をしている者です。
返信削除ブログで管理人の電力に関する記事を読ませて頂きました。
少しでも電気工学、中でも電力工学に心得があれば現在の「過剰な脱原発、自然エネルギー推進」に不安を抱くのが通常です。
マスコミ、ネット上で「わかりやすく極端な発言の多い脱原発者、自然エネルギー推進者」が正義とされ、難しく現実的な事を言う科学者は「御用学者」というレッテルを貼られていることに恐怖を覚えます。
あなたのような科学者が一人でも多く世の中に認知されてほしいと思います。現在の行き過ぎた二元論に国民が惑わされる中、本質的な解を国民に示して頂きたいです。