「印を結ぶ」という動作が伝えられている武術(特に古流)がある.たとえば香取神道流とか柳生の流派とか,私が学んでいる合氣道においてもそういった印を結ぶということが伝えられている.もちろん,映画などでよく描かれる忍者などもそうかもしれないし,密教の修行者や山伏は当然のように印を結ぶ.この印を結ぶという行為にはどんな意味があるのだろうかと,個人的な考えをまとめてみる.
1.落ち着く,集中できる
だいたい印は指を組むのがややこしい形をしていたりする.それを迅速にいくつもの印を連続して結ぶのである.もしも,これから印を結ぼうとする人が,俗にいう「あがっている」状態であったら,そんなふうに迅速に印を結ぶことができるだろうか.それはたぶん難しいだろう.一方で,逆に難しい印を次々と結ぶことによって,恐怖や不安から気がそらされて集中し落ち着くことができるのではないだろうか.ここで「落ち着く」というのは,合氣道でいうところの統一の状態,すなわち集中し,臨機応変に落ち着いて行動できる状態を指す.武術のような生死をかけた状況においてこうした心の状態の持ちようは,勝敗に大きく影響していたのではないだろうか.
2.肩の力が抜ける
複雑な印を連続して迅速に結んでいくことは,肩に力が入っていてはできない.すなわち,印を結ぶときには肩の力が抜ける,すなわち落ち着いた状況になるのである.また指を組んでみるとわかるのだけれど,肩が下がるような形になっている.身体の無駄な力を抜くことによって心の状態を落ち着かせているのだと思われる.
3.宗教的な自己暗示
密教などにおいては印を結ぶときに真言を唱える.たとえば不動明王であったり,摩利支天であったり,それぞれの神様の真言を唱えることになる(武術などでは唱えないことも多いけれど).また印形もそれぞれ宗教的な意味を持っている.江戸時代や平安時代,まだ宗教心が人々の間で重要あった頃,生死をかけた危機において頼れるのは神様だったはずである.この神様を身におろす,あるいは御加護を直接受けることができる,と信じることは,非常に効果のある自己暗示であり,非常時に恐怖や不安から脱却するのに大きく役立っていたのではないだろうか.
4.催眠暗示におけるアンカー
日頃の厳しい鍛錬において,好ましいと思われる心身の状態がおとずれることがある.この状態が常に実現できるのであれば言うことがないが,残念ながら闘いの場などの危機的な状況にあったときに,そうした心の状態を実現することは至難の技である.しかし,日頃の厳しい鍛錬の中でそうした状態を会得したときに,その心の状態を印形と結びつけるのである.すなわち催眠暗示におけるアンカーを作っておくのである.いざというときに,その印を結ぶことがアンカーとなって,その好ましい状態を呼び戻すことができるのである.スポーツでルーティンなどと呼ばれる一連の動作と効果は似ているのかもしれない.アスリートも武術家も暗示に自分にかけることができなければ,火事場の馬鹿力など出せないのではないかと思う.
5.刀印による文字を書く動作,あるいは九字を切る動作について
印を結んだあと,刀印で「龍」などの文字を空中に書くような方法もある.あるいは密教では九字などにおいて,空中に格子を切ったり,あるいは五芒星を描いたりする.これは,描く図形に宗教的意味をもたせることにより,やはり自分に強い暗示をさらにかけるものではないかと思われる.また描く図形は尖ったものであることが多い.これは世界的に魔除けと呼ばれる形は,十字であったり,五芒星であったりとトゲトゲしいことが多いことを思い起こさせる.またその描き方は,なにかを切るように鋭く行うことが多いようだ.
ということで,思いつくままにメモ代わりとして書いておく.たぶん時間が経てばまた違う考えをもつとは思うのだけど(あくまでも個人的な考えです).
2019年9月8日日曜日
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