2021年6月26日土曜日

言葉が人に影響を与えるということ

 言葉が人に影響を与えるという事実は,意外に軽く考えられているように思う。たとえば,「がんばれ!」という励ましの言葉だったり,「好きです」という告白であったり,そして,「失せちまえ!」のような脅しの言葉だったり,そうした陽に人に投げかけられる言葉であればその人に影響を与える,ということはわかりやすいが,実はそれだけではない,意識されない言葉も人には影響を与えるという事実を人は見過ごしているように思われる。

例えば,活気づいている居酒屋に友達と入ったとする。このとき,私が「にぎやかだね」といえばポジティブな方向に気持ちが向いていくけれど,「うるさいな」といえばネガティブな方向に偏っていく。私が意識的にそうした言葉を用いれば,友達の気分を私の思う方向に導いてくことも可能となるだろう。そしてうまくすれば友達は私がそうしたコントロールを試みていることに気づかないのだ。このようなことは日常会話において頻繁に行われている。私の相槌のやり方ひとつで,話している相手の気分を左右できるのだ。

もっと意図的に相手を誘導する技術もある。例えば,ミルトン・エリクソンなどに代表される現代催眠がそうだ。術者は普通に会話しているだけで相手をトランスに入れてしまう。相手は無意識のうちにいつのまにか導かれているのだ。相手の目の前で振り子を揺らすようなものだけが催眠術ではない。

エリクソンは患者にある文章を読ませるだけで,頭痛などの症状を改善できたという。もちろんその文章には,患者の気分がよくなるようなワードがちりばめられていたのだけれど,「あなたの頭痛は治っていく」などという明示的な指示はない。あくまでも顕在意識に気づかれず,潜在意識に直接届くようなワードを用いるのである(顕在意識に気づかれれば少なからず拒否反応が起こりやすくなってしまう)。

現代催眠はこのようにまさに言葉によって相手の潜在意識を動かそうとする技術なのだ。しかし「現代」とはいうけれど,いにしえから伝わる「魔術」なども潜在意識の操作を目的としているようなものだから,技術としては古くから存在しているのだと思われる。宗教儀式,修行などもその延長線にあるのかもしれない。この人間の心理とオカルトとのあいまいな境界に私は強く惹かれている。


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