2010年8月19日木曜日

理工系は文章力が低いのか?

学会に投稿する予稿の作成に
学生が四苦八苦している.
ネタ的には,まぁ良いのだけれど,
文章に問題がある.

理工系学生はやはり日本語が苦手なのか?

いや,そんなことはない.
実は,文系よりも理工系の方が
文章力があると企業では
評価されたりしているのだ.
と書くと,驚く人がいるかもしれないけれど,
私はこれは当然のことなのだと思う.

その理由としては,

1) 職場で求められるのは報告書,企画書など
俗に言われる仕事文,技術文書である.
そこには修辞学上の凝った表現は不要であり,
正確に内容を読者に伝えることが目的であること.

2) 理工系の学生は,実験レポート,学会の予稿,
論文,卒業・修士論文等を書く頻度が高い.

3) 文書にグラフ,図,表などを使用する
頻度が多いこと

が主なものとしてあげられるだろう.
理工系学生は,こうした技術文書を書くことについて
かなりの量をこなしているのである.
それなりに評価されるのももっともだと思う.

仕事文,技術文書には,人を感動させることは求められない.
必要最小限の分量で,正確に内容を伝えることだけが
求められる(あとは期限を守ることが求められる).
したがって,わかりやすさ,読みやすさ(速読性)は
文書が持つべき必須の特性である.
そうした文章を書く能力こそ求められるべきものである.
(小説家になるのでないのであれば.
しかし,最近は理工系の研究者でも
優れたエッセーを書く人も多くなっているので,
状況は変わってきたのかもしれない)

しかし,こうした技術文書を書く技術というのは,
残念ながら日本の学校では学ぶ機会が
少ないのではないだろうか.
海外では,Technical Writingなどという授業があって,
論理の展開の仕方,
接続詞の使い方,段落の分け方,
冒頭や章末・節末の文章の書き方,等の
具体的なスキルを学ぶことになっているという.
しかし,日本の学生は,自分で身につけるしかないのである.
(教員か上司に添削してもらうことはできる)

学生の皆さんには,積極的にこうした技術を
身につけるように努力してもらいたいと思う.
英語も大切だけれど,それ以前に
日本語でも論理を展開して,相手に正しく
内容を伝える能力を鍛えておかなければならない.
そして,理工系の学生の皆さんにも
もっと自信をつけてもらいたいと思うのである.

(私なんて,学生の頃に書いた論文などは,
査読者から「表現が文学的すぎる」とか言われていたし,
働いてからも上司にいつも赤ペンで直されていた.
上司がこの文章をみたらたぶん笑うだろう)

#以前,私が学生実験を担当していた頃に,
レポートの書き方について,学生向けに書いた文章が
あるのだけれど,残念ながらこのブログには
pdfファイルはUPできないようである.
いつかダウンロードできるようにもしてみたい.
その文書に参考文献としてあげておいた
文章力UPのための本をいくつか紹介する.
(ただし平成17年に書いた文章なので,
紹介している本が古いかもしれない.
最近はもっと良い本が出版されていることだろうと思う)

-------------


1. 「理科系の作文技術」木下 是雄 ()、中公新書 :名著。PC全盛の現在において内容が古くなったという評もあるが、私はそうは思わない。まずはこれを読む。文系の人にも勧めたい一冊。
2. 「仕事文の書き方」高橋 昭男 ()、岩波新書 :報告などを仕事文と定義し、過不足無く正確に情報を相手に伝えることを目的とした文章の書き方を解説した一冊。
3. 「理科系の英文技術」Michael Alley ()、志村 史夫 (翻訳)、朝倉書店 :英文による技術文書の作成方法に関する解説書。主に論文・報告書を中心に書かれている。英文だけに限らず、和文にとっても大いに参考になった。もちろん、英語の論文のWritingにおいても有用な一冊である。多種な例文の引用は、実際に論文を書くときに大変に役立った。海外ではこうしたTechnical Writingに関する解説書が数多く出版されている。日本でも最近増えてきたがまだ数は少ないようだ。
4. 「英語技術文書の作法」David Beer (), David McMurrey (), 黒川 利明 (翻訳), 黒川 容子 (翻訳)、朝倉書店:同じく英文による技術文書の書き方の解説書。製品の説明書などの書き方にもふれており、多種な例文とともに有用な一冊。
5. 『分かりやすい文章』の技術」藤沢 晃治 () ブルーバックス講談社 :最近、良く書かれているなぁとの印象を持った一冊。このほかにも、「分かりやすい説明」の技術,「分かりやすい表現」の技術、の姉妹編あり。平易な文章で、極めて実践的に書かれている。

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