2023年1月9日月曜日

モデリングによって師匠のモデルを自身の中に構築する

 武道・武術の世界において「学ぶ」ということは,一般の「学習」よりもずっと「まねぶ」すなわち「真似る」ということに近くなる。

学校では,要素,要素から学び少しずつ基礎を積み上げていく学習方法が一般的である。小学校から大学まで,徐々に内容は難しくなっていく。先に学んだ基礎・要素的な知識を基盤としてその上にさらなる知識を構築していこうとする手法である。

一方,武道では,まず「できる」ことが求められる。そのため基礎から積み上げていく習得法では技を遣うまでに遅すぎるのである。ではどうするか?そこで昔から言われているのが「師匠の真似をする」ことである。技だけの真似をするのではない。日頃の立ち居振る舞い,すなわち歩き方から,煙草を吸うしぐさまで真似をしようとするのだ。すべて真似することによって,先生の内部感覚を再現しようとする。

そういうことができるようになれば,先生が技をかけているのを見て,師匠の内部感覚を推測し,それを自身の内部感覚で再現できるのだ(これを"見取り稽古"といったりする。ただし学ぶ側の習熟度も非常に高くなければならない)。その後,すべて真似した中から,要不要を見極め,必要なものだけを残して身に残していく。こうすることによって,技を比較的早期に身につけることができるのに加え,その他の技術も習得しやすくなるのである。

まず師匠の挙動を真似する。こうした学習方法は古来武術の世界では当たり前であるけれど,現代の一部の分野では「モデリング」などと呼ばれるらしい。制御工学でいえば,制御器(コントローラ,すなわち自身の中のモデル)の「オブザーバ」いや「内部モデル」というべきか。この内部モデルが正確であればあるほど,技の精度が高まっていく。師匠(先生)の内部モデルは単に身体の操作方法だけにとどまらず,そうした動きを自然化・自動化できるための思想,哲学までにも及ぶものでなければならない。技は高度になればなるほど,単なる体育的な動きに収まらない総合的なものになっていく。また,そうしたものを生活をともにし,師匠のお世話をすることによって弟子が身につけていくシステム,それが「内弟子制度」「徒弟制度」ということなのだろう。

私の合氣道の先生は,先生の先生がタバコを吸い,そしてタバコをやめるところまでも真似したとおっしゃっていた。他の武術においても,師匠と歩き方が似てくるとか,話し方がそっくりとか,そんな話を聞く。同じ合氣道であっても,習った先生が異なれば同じ技でも雰囲気が違ったりするし,「**先生そっくり」と言われたりする。結局のところ師匠を真似るところから始まっているのだ。

武術の世界だけでなく,世の中の短期間で習得を目指すためにはこの「モデリング」の技法が非常に役に立つだろうと思われる。世の天才を天才たらしめているもの,達人を達人たらしめているもの,それが何なのかなんて未習得者からみたら全然わからない。だからこそすべてを真似する。未習得者の知識と経験で,天才・達人の技術を取捨選択するなんてもってのほかである。その技術を習得した後に,不要な事柄を捨てればよいのである。こうした重要なことをもっと具体的にどこかで教えてくれればよいのに,と思う。

武術の技術がある程度以上に習熟した人にとっては,現代は素晴らしい時代なのだと思う。なぜならばYoutubeにいろいろな技術の動画が上がっているからである。見る人が見れば,その内容(裏に隠された技術およびその身体操作法,内部感覚など)がわかってしまうのだ。もちろん,「受け」を実際に取ることが最も重要な学びであることには間違いがないけれど。

一方で未熟で,経験したことがない人たちにとっては,どんなにすばらしい技の動画があったとしても,それらは単なる「通信教育」以下でしかない。


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