探偵 濱マイクが好きだった。
映画はシリーズ3本が作られていてその全てを観た。2002年のテレビドラマシリーズは12回分が制作されていて,それらは当時珍しいフィルム撮影,そして各回異なる監督が撮るというたいへん贅沢なシリーズだった。行定勲や青山真治など各監督で全く異なるテイストで各話が撮られているから,各回一話完結でほとんど繋がりがない。物語の設定だけ守られているようだ(実はそうでもないけれど)。最近,このテレビドラマの動画配信が始まったということで,もう一度見直したのである。やはり,そのすべてがカッコいい。
私はもともと情けない男が大好きである。そして探偵の物語が大好きである。ハードボイルドが好きなので,つまりは情けないハードボイルドの探偵が好きなのである。
たとえば,ロバート・アルトマン監督の映画「ロング・グッドバイ The Long Goodbye」。フィリップ・マーロウはハードボイルドだけれど情けない男として描かれている(NHKで浅野忠信主演でドラマ化された主人公はかっこよかったけれど)。そしてこの作品に大きく影響を受けたという松田優作の「探偵物語」。工藤ちゃんのカッコよさ,情けなさが際立っている。いまだに私の憧れのキャラクターだ。そしてその流れをさらに引き継いでいるのが,永瀬正敏演じる「濱マイク」なのである(その先も,「仮面ライダーW」とかあるのだし,また「金田一耕助」,「金田一はじめ」,「美食探偵 明智五郎」,「霊媒探偵 城塚翡翠」などもちょっと情けない探偵たちだ)
正直に言って,ドラマの各回の内容は理解できないものが多い。濱マイクをカッコよく描くことだけが目的の設定・ストーリーであって,トリックを解くわけでもないし,そもそも話に整合性はないし,ときにはSFのような設定になっている回もある。濱マイクのためのイメージストーリーというべきか。世間からかけ離れたストーリーだからこそ,濱マイクのカッコよさ,せつなさが際立っている。ミステリー展開を期待して見る作品ではない。
しかし,あらためていうけれど,ドラマのなにもかもがカッコいい。マイクのファッションもいいけれど,個性豊かな登場人物たちとの会話,煙草の吸い方など立ち居振る舞いもキザでカッコ悪く,それがすべてカッコいい。放映当時はこのキザさが不評で,ダウンタウンの松本などは「カッコつけすぎ」と嫌っていたけれど,私はそれがすごくカッコいいと思っていた。
映画のマイクはまだ尖った少年で,観ていてハラハラしたけれど,ドラマの彼は少しおとなになって落ち着いたように感じられる。その少しの落ち着き具合とキザさ加減がちょうど良いバランスなのだ。演じる永瀬正敏も30代も半ばを過ぎたくらいか。永瀬のタイミングもちょうど良かった。マイクの純粋さと擦れっ枯らしさが感じられた。
そう,「濱マイク」を観れば,普段は理解してもらえない,私が愛してやまない「情けない男のカッコよさ」とはなにかを理解してもらえると思う。今回,動画を観てあらためてそれを思った。
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