2011年3月25日金曜日

50Hzと60Hzを統一できないのか

今日は,以下の話題.

Q. 東日本の電力系統の周波数50Hzと
西日本の60Hzを統一できないのか

これも当然,現在の状況を見れば
出てくる話題だと思うけれど,
私がこの話題を見つけたサイトでは,
大変感情的な記事になっていて,
(電力会社を感情的に批判している)
少し悲しくなった.

私の考えでは,周波数の統一は
大変に難しい,と思う.
その理由は,言ってしまえばコストなわけだけれど,
コストがかかる原因は,技術的な問題である.
以下に,私が今思いつく技術的な問題をまとめる.

1) 発電ユニット(発電機+原動機)が
周波数の変化に対応できないから

電力系統の周波数は,実は系統に接続されている
発電機(同期発電機)の回転数によって決まっている.
発電機は,タービンや水車などの原動機によって
回転させられている訳だけれど,その回転数は
系統の周波数50Hzまたは60Hzに同期するように
(電気的に同じ速度で回転するように)なっている.
機械的な回転速度は,原発の発電機で
1500rpm/1800rpm,火力で3000rpm/3600rpmと
だいたい決まっている.
(rpmは毎分の回転数を表す単位,
1500, 3000 rpmは50Hz系統,
1800, 3600 rpmは60Hz系統)
したがって,1.2倍の回転速度の違いがある.

こんなに回転速度が変化してしまうと,
タービンは振動してタービン翼などに損傷をきたす
恐れがでてくる.
そのため,発電ユニットは,周波数が許容範囲を
逸脱した場合には,機器の安全のため
停止することになっている.

(因みに電力供給が需要に比べ不足してくると,
電力系統の周波数が下がる.
この下がり方が大きいと,あちらこちらで
発電機が運転を停止し,大停電に通じることになる.
現在,関東で行われている計画停電は
この大停電を起こさないように,
電力需要を低減し,周波数変化を起こさないように
しているのである)

結局,回転体の機械的な問題で,
50Hzの発電ユニットを,60Hz圏内では
使用することができないのである.
これを解決するには,ほとんどの
発電ユニットを造り替えなければならないだろう.

2) 変圧器に問題がある.

変圧器とは,電圧の値を変化させる
電気機器で,電柱の上に乗っている
あのドラム缶みたいなものも,その一種である.
(あれは柱上変圧器といって,6.6kVから
200V,100Vへ電圧を変換している)

変圧器は,流れる電流とその周波数によって
鉄心と呼ばれる部分の設計が決まる.
50Hzで使用される変圧器は,60Hzのものよりも
実は鉄心の断面積が1.2倍大きい必要がある.
(鉄心を通る磁束量が1.2倍大きくなるため)
そのため,50Hz圏内の変圧器は
同じ運転条件(定格)のもので,
60Hzの変圧器よりも大きなサイズになっている.

したがって,まず,60Hzの変圧器を50Hzの系統
で使用するためには,電力(電流)の量を0.83(=1/1.2)倍に
小さくしなければならない.
(だから通常は60Hzの変圧器を50Hzでは使用しない)
一方,逆に50Hzの変圧器は,60Hzの系統でも
使用できるはずである.
ただし,鉄損と呼ばれる損失が増加してしまうし,
振動や騒音が大きくなるだろう.

50Hzの系統を60Hzにするならば,
現在の変圧器は使用できるかもしれないが,
損失は増大することに注意する必要がある.

3) リアクトルやコンデンサの値が変化する

リアクトルとは交流用のコイルである.
リアクトルの電流の流しにくさは,
電流の周波数に比例する.

この交流電流の流しにくさは,直流でいうところの
抵抗(オーム)に相当し,インピーダンスと
呼ばれ,単位はオームで表される.
(リアクトルのインピーダンス Zは
Z = 2 * pi * f * L
pi: 円周率,f: 周波数,L: インダクタンス
すなわち,周波数に比例する)

リアクトルのインピーダンスは,
周波数に比例するから,
50Hzに比べ,60Hzの系統では
同じリアクトルでも,1.2倍電流を流しにくくなる.
そうなると送る電力が小さくなることになる.

一方,コンデンサも周波数に依存して
インピーダンスが変化する.
(ただし,こちらはリアクトルと違って
反比例する.すなわち直流では,
インピーダンスは無限大となり,
コンデンサは直流を流すことができないことが
わかる)

すなわち,リアクトルやコンデンサの振る舞いが
変わってしまうことになり,規定の電圧が
得られなくなったり,あるいは電力が送れなくなったりし,
あちらこちらで不都合が生じてしまうことになる.
やっぱり難しいのである.


以上の理由から,周波数の統一は,今となっては
非常にハードルの高い事業になっている.
やはりそれぞれの系統で独立して運用するしか
ないようである.


#少し脱線した問題を.
(答えは,検索すればすぐにわかります)

Q. 新幹線は交流を受電して走行するのだけれど,
東京から大阪までを結ぶ東海道新幹線は,
50Hz or 60Hzどちらの周波数で
運用されているのでしょうか?

Q. それでは北陸新幹線(長野新幹線)は?

4 件のコメント:

  1. 技術的な解説ありがとうございます。
    ところで 一気に統一する事は無理と言うことですが、静岡、山梨、神奈川、東京を60Hzに転換、その後10年位かけて逐次統一していくという方法でも無理でしょうか?
     今回不足している電力は膨大であり、このまま50HZ地域が節電をするだけでは、経済の停滞、クーラー使用抑制のために高齢者の熱中症死亡が予想されます。計画停電地域単位が 送電単位と思われますので逐次の変更という点で ご考察いただけますとありがたいのですが・・・

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  2. 技術的な解説ありがとうございます。
    ところで今回の震災で電力は大幅に不足し、このまま50HZ地域が節電と言う手法で夏場を迎えた場合、経済の停滞は勿論の事、クーラー使用抑制による熱中症死亡者の発生が予測されます。
     この際静岡、山梨、神奈川、東京あたりまで60Hz地域にしてしまい、現在残っている発電能力で東北、北関東の需要を賄うということは技術的に無理でしょうか?
     今後修復していく発電能力については10年位をかけて逐次60HZ地域を拡大するという方法です。現在行われている計画停電の地域割が送電単位と思われるので、技術的な可能性についてご考察いただけないでしょうか。

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  3. 今朝NHKの番組で電力が供給過多になっても停電する、
    その理由は周波数が狂う為と話しているのを聞き、
    電力の供給過多と周波数の関係に興味を持ち、
    ネットで検索してこのサイトに辿り着きました。
    要は発電機の回転数に帰結する事がわかりました。
    有難うございます。
    しかし、供給過多になるとなぜ、発電機の回転数が上がるのかが分かりません。
    想像では、発電機の負荷が下がり、逆起電力が下がり
    (すみません逆起電力を持ち出したのはいい加減です)、
    回転数が上がる ということでしょうか。
    お時間のある時のこの部分の説明を加筆いただけると幸いです。
    よろしくお願いいたします。

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  4. すみません,回答遅れました.
    5/26付の記事に少し書きました.
    お役に立ちましたら幸いです.

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