本日(3/17)の電力供給が需要に対して逼迫している
とのことで,東京電力管内では大規模停電の可能性が
あるという.
経済産業省大臣が声明を出したり,
あちらこちらで節電のお願いがされていたりする.
該当管内の方々にはぜひ節電を心がけて
いただきたいと思う.
ここで危惧されている停電は,
通常の停電とは少し違う.
その復旧に,時間がかかる大変な大規模なものに
なる可能性が高いのである.
通常に発生する停電の原因は,
落雷などを含む事故であることが多い.
たとえば電線に蛇が巻き付いて,
鉄塔と電線が短絡し(電気的に接続される),
地絡事故(大地と電線が短絡する事故)が発生したとする.
この場合,大地に向かって大きな電流が
流れるから電力会社は地絡が起こったと
検知でき,そのポイントを含む電線を,
両端に設置されている遮断器を用いて
一旦系統から切り離すのである.
(簡単に言うと,事故が発生した電気回路を
遮断器というスイッチを使って一時的に
切り離すのである)
そうなれば事故点に流れ込んでいた
電流は遮断され,切り離された系統は
健全性を保つことができる.
また切り離された側の電気回路側でも
健全性が回復されたら,
(たとえば蛇が電流で黒こげになって,
焼け落ちて,大地と電線が電気的に
再び切り離されたりする
(絶縁が回復するという))
再び電線の両端の遮断器を投入して
電気的に再接続する.
この間,およそ0.2~0.5秒程度である.
(もっと短いこともあるし,
もっと長くなることもあるが,
1秒以上は普通かからない)
切り離されている間は,最悪停電する.
これが良く発生する停電である.
しかし,一般的には電力は2回線以上で
送電されていることが多いから,
事故が発生した1回線が切り離されたとしても,
もう一方の回線で電力は継続して
供給されるのである.
しかし,前述の事故電流が流れている時間は
付近の系統電圧が低下してしまう.
これが,一般にいわれる
「瞬時電圧低下(瞬低)」である.
事故の検知時間が0.2秒程度とすれば,
電圧の低下は,まばたき程度の時間でしかなく,
私たちは,一瞬「あれ,暗くなった?」と思う
程度で済むのである.
こうした保護システムが整備されていないと,
停電が発生することになる.
こうした事故が原因となる停電は,世界的に見れば
あちらこちらで起こっており,
日本は逆にこうした停電の少なさは
世界のトップレベルにある.
さて,今回懸念されている停電は
これまで説明した事故が原因となる停電とは異なる.
電力の供給が需要に対して足りない場合,
無効電力と呼ばれる電力が不足していく.
この無効電力という概念がわかりづらいの
だけれど,コイルやコンデンサに関係した
電力で,電圧に大きく関係すると思ってください.
#私たちが普通電力とよんでいるものは,
無効電力ではなく有効電力と呼ばれるもので,
抵抗で消費されたり,モータなどの動力で消費される
実際に仕事をする電力です.
一方,無効電力は仕事をしません.
この無効電力は,コイルで消費されて
コンデンサで発生されるのだけれど,
供給が足りなくなると,
系統の電圧が下がっていくことになるという性質がある.
電力会社は,そのために系統のあちらこちらに
無効電力を発生するコンデンサを
用意しているのだけれど,それでも足りなくなると
電圧が低下し始めるのである.
そして電圧がある値以下になると,
あちらこちらで変電所などが運転を停止してしまう.
これでその区域が停電する.
そうなれば負荷が急激に減少するから
発電所は耐えられなくなって
(負荷急減による発電機の回転数上昇など)
発電所も系統から切り離されることになる(解列).
こうして電力の供給量はますます減少し,
電圧は非常に急速に低下し,
系統全体で停電に至ることになる.
これが電圧崩壊と呼ばれる現象である.
1980年代に東京が大停電したのは,
これが原因だったといわれる.
(私は大学2年で,東京に住んでいたけれど
信州に合気道部合宿中で,経験していないのだが)
また,電圧がそれほど急速に低下しなくても,
発電量が消費に足りなければ
系統の周波数は,どんどん低下していき,
結局のところ,やはり系統全体で
大規模な停電に至る.
一度,系統から切り離された発電所は,
あらためて接続されるのに1~数時間の
時間がかかるのだ.
その間,系統全体が停電になってしまうのである.
これは最悪の事態で,なんとかして
避けなければならないことが
理解してもらえるだろう.
そう,今回の計画停電は,被害を最小にするための
ギリギリの方策なのである.
しかし,それでも事態は危険な状況にあるらしい.
あとは節電を心がけるしかないのだ.
関東の無事を祈るばかりである.
しかし,これがこれから毎日続くとなると...
地震で停止している発電所が
ひとつでも早く復旧して欲しいものである.
#(補足)
電力不足には,
「電力は貯めることができない」という性質が
大きく関係している.
電力を使う時間に,消費量にあわせて
発電するのが,電力会社の仕事である.
朝や深夜に電力を貯めて,
足りないときに使えたらどんなに素晴らしいだろう.
しかし,そうした電力貯蔵装置の大きなものは,
一部の揚水発電書に現在は限られているのだ.
#「50Hzと60Hzの系統間で電力を
融通することができない」という性質も
大きく関係している...
2011年3月17日木曜日
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三浦先生
返信削除分かりやすい解説ありがとうございます。
アメリカのような大停電は、日本では起きないとも言われていますが、首都圏の場合、一旦電圧崩壊が起きたとしたら、どのくらいの規模で広がる可能性があるのでしょうか。
現状では毎日計画停電しているので、計画外で100万世帯くらい停電でしても驚かない状況だと思います。1000万世帯の停電といった事態が起こりうるのでしょうか。
また大規模停電の場合、復旧が2,3時間ですまなくて、10時間以上かかるようなことになるのでしょうか。
端山 様,コメントどうも有難うございました.
返信削除ご質問は非常に難しい問題で,私の持っている知識と情報では,定量的な回答をすることができません.すみません.
本日(3/18)の記事に,少しだけ定性的な回答を書きましたので,よろしくお願いいたします.
大規模停電が起きないことをお祈りしております.
古い解説へのコメントで済みません.先日も大停電が起こったらどうなるかをテレビで紹介し,盛んに不安をあおっていましたが,素人には少し疑問があります.
返信削除ある地域で需要が増え,どうしても対応できないようになったら,その地域であらかじめ定めておいた数%の地域を系統から切り離し,変電所の維持を図る(それでも足りなくなれば、更に次の数%を)というような対応は考えられないのでしょうか.突然の停電であっても,どうせ停電してしまうわけで,全体が停電してしまうよりましだと思います.
計画停電がそれに対応すると言われればそれまでですが・・・