なにか世の中は仏教ブームであるような気がする.
なかでも浄土宗,浄土真宗は,
法然八百回忌,親鸞七百五十回忌ということもあって,
盛り上がっているような気がする.
因みに,うちは,お墓は浄土真宗だけれども,
やっぱり神社にも参るし,
クリスマスも楽しむ.
まぁ,典型的な家庭であり,
私は特定の宗教を持たないというべきだろう.
ただ,最近の仏教の盛り上がりには,
なにかしらの理由があると思っている.
そして宗教が流行るときというのは,
あんまり世の中が良い状態に無いことが多い.
やっぱり現在はたいへんな時代なのだろう.
さて,そういう理由で,というわけではないが,
最近読んだ仏教を扱った3冊をここに紹介.
(私は昔から,あちらこちらの宗教の本には
手を出している.
まぁ,信心は起こらないのが申し訳ないのだが)
1.仏典をよむ ~死からはじまる仏教史~,
末木文美士,新潮社
これは久しぶりにゾクゾクする知的興奮を
味わえた傑作.
雑誌「考える人」に連載時にも
毎回楽しみにしていたのだけれど,
こうして系統立てて読むと,
さらに著者の考えがわかって感動する.
少しマイナーな仏典(といっても有名な仏典も
多いけれど)を紹介するのだけれど,
その仏典の内容はむしろ骨子の紹介で,
その仏典が成立した時代背景の説明に
注力している.
法然,親鸞,道元,日蓮などが
なぜあのような教理を主張して,
著作を残してきたか.
彼らは当時,異端児・反逆者だったのである.
そのあたりが,著者のもくろみ通りに
ダイナミックに解説されている.
また,インド,中国を経て日本に仏教が伝わり,
日本に土着化していくうえでの変遷もよくわかった.
最終章にハビアン「妙貞問答」を持ってきた構成も秀逸.
日本でなぜキリスト教が根付かなかったのか,
そこらへんを考えるヒントを与えている.
宗教に関する本で,ここまで読むのが
楽しかったとは,本当に意外である.
仏教の入門本として,自信をもって
オススメできる一冊.
著者のアプローチ,距離感にも非常に好感をもった.
別の著書もぜひ読んでみたいと思う.
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2.ブッダ物語
中村 元,田辺和子,岩波ジュニア新書
ブッダという人の伝記は,
単に歴史学的な話では面白くないし,
一方で伝説ばかりだと抹香臭くて拒否反応を示す.
そんな中で,この本はどちらのバランスも
兼ね備えた良書だと思う.
ジュニア向けということでさらっと読めるし,
変な味付けもされていない.
かといって,著者は碩学として著名であるので
決して薄い内容ではなかった.
仏教の創始者としてのブッダ.
その生き方を考えさせられる.
この本によれば,彼はどんなときにも穏やかで,
「よくきたね」「さあこちらに来なさい」と
明るい声で呼びかける人好きのする人柄だったという.
(あとがき近くに書いてある)
長い修行の先にそのような到達点が
あるのだとすると,なにかほっとする.
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3.仏教とは何か ~ブッダ誕生から現代宗教まで~
山折哲雄,中公新書
「仏典をよむ」と違って,記述に著者の主観,
想像が多く,共感できないとちょっと拒否反応を示してしまう.
(私は少なからずそうだった)
しかし,日本に土着化していく過程や,
葬式仏教への考察などは大変興味深かった.
日本の土着化のうえで,それまでにあった民俗信仰
(祖霊信仰,山岳信仰など)が,仏教に影響を与え,
仏教が変わってきたという話は,大変興味深かった.
またお墓がなぜ今の形に落ち着いたのか.
(そもそも仏教ではお墓は本来不要)
そのあたりの考察が面白い.
私にとっては,新しい発見が多くて,最後まで飽きずに
読むことができた.
本書には最初から最後まで,
著者の仏教への危機感が感じられる.
宗教が果たすべき役割について悩んでいる雰囲気が
伝わってくる.
1993年の著書なので,このあとにオウム真理教などの
事件があり,その後,宗教界が苦難の時代を
迎えることになったことを思うと,
著者の危惧がどう変わっていったのか,
興味がある.
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この3冊から思ったのは,原始仏教と
鎌倉仏教に代表される日本仏教,
そして私たちの生活の中の民俗仏教.
実はずいぶんと異なるものであるということ.
そもそもお釈迦様は,霊魂などには言及しないし,
浄土信仰もない.
本覚思想も如来蔵もない.
修行無しに悟りはない.
念仏や題目を唱えることによって
救われるなんて,そもそもとんでもない発想だ.
小乗から大乗へ,そして日本の仏教へと
独自の発展を遂げているのである.
そして,それは,その時代とそれを受け入れる民衆の要求が
そうさせてきたのである.
とすると,原初の仏教とはどうであったのか.
俄然興味が湧いてくる.
今度はその辺をもう一度読んでみることとしよう.
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