2011年3月14日月曜日

関西電力・中部電力管内での節電があまり効果的でないという理由

東北地方太平洋沖地震で被災された方々には
心よりお見舞い申し上げます.
私の親戚も,被災しており,
なんとかひとりでも多く助かり,
一日でも早く復旧することを心より
お祈りしております.

さて,地震の被害も大きいけれど,
ここでは,電気関係の話を.

そして,原発の話も気になるけれどが,
東京電力・東北電力の輪番停電と
節電の効果について,少し書いてみたい.

原子力は,東京電力においては,
その発電電力のおよそ4割ほどを占めている.
そのすべてがダウンしたとあっては,
当然電力不足の状況に陥る.
そして,現在がその危機にある.
残る火力,水力をフル稼働させても
日中の電力需要を満足できない.

となると,電力系統全体で停電になる
可能性があるので,
区域で分けて,計画的に停電を起こし,
電力需要の低減を図ることを行う.
そして,各区域で計画停電の時間帯をずらし,
順々に停電地域を変えていくのが,
輪番停電である.
(電力系統では,需要と消費が常に
バランスされていなければならない.
電力を貯めることは基本的には,できないのである)

数年前に,上海を訪れた際には,
慢性的な電力不足で,輪番停電が行われている,
という話を聞いたのだけれど,
まさか日本で,そしてそれが東京電力で
行われることになろうとは,全然思いもしなかった.
(東京電力は世界最大の電力会社のひとつだから)

電力需要を低減することは,
もちろんこうした状況への対策としては重要で,
東京電力,東北電力管内での節電の努力は,
大いに進められるべきである.

しかし,関西電力管内等で節電のチェーンメールが
回っているのだという.
これはおかしいのである.
もちろん,日常的に節電への努力は大切であるけれど,
それ以上に節電する必要は現在無いことを説明したい.

ご存じの通り,日本は世界的に見ても特異な国で,
東と西で周波数が異なっている.
これは,明治時代,電力設備を導入した際に,
欧州からの技術が中心であった東側では50Hz,
米国からの技術が中心であった西側では60Hzと
なってしまったためである.
日本ではその境は,東京電力(50Hz)と
中部電力・北陸電力(60Hz)となっている.

ここで電力の特徴のひとつとして,
異なる周波数の電力系統を直接接続することが
できない,ということがある.
だから,東京電力と,中部電力・北陸電力の系統は,
基本的に切り離されているのである.

一方,東京電力と東北電力は同じ50Hzなので,
つながって電力を融通することができるのである.
だから,福島や柏崎からの原発で発電した電力を
送ることができるのである.

では,東京電力と,中部電力・北陸電力の系統の間で
電力を融通する場合にはどうすればよいのか,
ということになるが,そのためには周波数変換器という
半導体でできた装置が必要になるのである.

この周波数変換器は,サイリスタという半導体素子を
用いた電力変換器で,60Hzの交流を
一度直流に変換し,それからまた50Hzの交流に
変換して,電力を融通するという働きをする.
(この交流/直流/交流電力変換を
Back-To-Back方式と呼ぶ)
これを用いれば,60Hzの系統(中部電力)から
50Hzの系統(東京電力)に電力を
送ることができるのである.
(逆ももちろん可能)

しかし,半導体素子というものには,
流せる電流に限界がある.
どこまでも大きな電流が流せるわけはなく,
ある値以上は流せないのである.
(流しすぎると素子が壊れてしまう)

周波数変換器が接続されている
系統の電圧は一定で変わらないから
(コンセントの電圧が100V一定なのと同じ)
変換できる電力には,電流の最大値によって
限界があることになる.
(電力は,電圧と電流の積に等しいので)
この限界値を(多少不正確だけれど)
変換器の容量と呼んで,
融通できる電力の最大値の目安となる.

さて,この周波数変換器は,
現在,佐久間,新信濃(1,2号),
東清水に設置されており,
それぞれ300 MVAの容量(30万 kWを最大送電可能)を
持っている.(ただし,東清水は100 MVA運転)
したがって,東清水が100 MW,その他の3基が
300 MW,トータルで1000 MW (100万kW)でしか
電力を融通できない,ということになる.

東京電力の夏の需要電力の最大値が,
5400万kW ~ 6000万kW程度だから,
100万kWなど本当にわずかな量であることが
わかるだろう.

一方,関西電力,中部電力は100万kWを融通することなど,
電力に十分余裕があるから問題ない.
逆にいくら余剰電力があっても,
その周波数変換器の容量の小ささがネックとなって,
東京電力に送ることができないのだ.

だから,関西電力,中部電力など60Hzの電力系統で
いくら節電しても,東京電力・東北電力のために
ならないのである.
むしろそうした過剰な反応によって,
60Hzの電力系統内の経済活動が影響を
受ける方がずっと問題である.

一方,もちろん,東京電力・東北電力管内での節電は
大いに意味があるので,努力する必要はある.

(北海道電力は,50Hzだけれども,
残念ながら本州とは直流で連系されている.
結局,交流から直流,直流から交流に変換する
半導体電力変換器が必要で,
最大容量の60万kWまでしか
電力を融通することができない.
したがって,北海道電力管内でも節電はあまり
意味がない)

結局,60Hzの電力系統内での過剰な節電は
不要なのである.
むしろ支援や復興のために,活動をどんどん
すべきなのである.
私は,被災された方々への想いは
大切だと思うのだけれど,
その一方で,過剰な反応・過剰な自粛は避けるべきだとも
思うのである.
そして,それを避けるためには正しい認識が
必要なのだと思うのである.


#関西電力のHPにも,周波数変換器の容量の
限界について,言及された記述があった.
特にチェーンメールには注意である.
http://www.kepco.co.jp/

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