この週末は忙しさの反動か,
本を数冊読んで過ごした.
今日は休日ということもあり,
それらの本の感想をまとめておく.
このブログが読書メモになることには
少し気が引けるけれど.
1.「大聖堂」 レイモンド・カーヴァー
ようやくこの短編集の最後の掌編,
「大聖堂」を読み終えることができた.
盲人である妻の友人に対する
夫の気持ちが変わっていくところが面白い.
とはいえ,正直に言うと私もこの主人公に
似ている気がして,なかなかつらかった.
もちろん,素晴らしい短編であることには
疑問を挟む余地はないけれど.
この短編集で私が好きなのは,
「羽根」,「ささやかだけれど役に立つこと」,
「僕が電話をかけている場所」あたりかな.
「シェフの家」も捨てがたい.
何度も言うけれど,私はこのレイモンド・カーヴァーに
ぞっこんなのである.
「カーファーズ・ダズン」の序文に紹介されている
カーヴァーの言葉,
「僕には幾つかのオブセッションがあって,
僕はそいつに「ヴォイス」を与えようとしているんだ.
たとえば男と女の関係,
どうして僕らは往々にして自分たちがいちばん価値を
置いているものを手放す羽目になるのかということ,
自分たちの中にある力や資質をうまく扱えないこと.
僕はまた生き延びるということにも関心がある.
どん底にまで落ちたときに,人はどのようにすれば
浮かび上がれるものかということにね」
に代表されるように,彼は損なわれてしまうものに
大変興味があるようだ.
人生は輝かしいものばかりで構成されているわけではない.
私もこの歳になって,そこらへんのことがようやく
理解できるようになってきたようだ.
この「大聖堂」と「象」という二つの短編集は
特に40歳を越えた男性方に
ぜひお薦めしたい佳品である.
2.「停電の夜に」 ジュンパ・ラヒリ
私と同い年.
しかし,三十代前半に書いた短編の数編が
「ニューヨーカー」に掲載され,なんとピューリッツァー賞まで
受賞するという才女.
(ついでにいうと,素晴らしい美貌の持ち主でもある)
話題にはなっていたけれど,どうもその作品に触れる機会が
最近まで無かった.
「停電の夜に」という短編集を読んでみた.
これが面白い.
まずは,インド系のアメリカ人の視点から見たアメリカという
文化の特殊さ,しかしそれでもその文化に尊敬を持って
物語が作られていることに特徴がある.
この少しずれた視点からアメリカ文化を眺めると,
そこに本質的にアメリカという国が持っている美点と
欠点がおのずと表れてくるという趣向なのである.
また結婚というものがたびたびテーマに表れてくるのも面白い.
たぶんこれも異文化の接触ということを表すのだろうけれど,
「停電の夜に」という短編のストーリーのひねり方は,
大変印象に残った.ひねってはあるけれど,
ハッピーエンドでは終わらないこの結末こそ,
最も納得できるものである.
私が最も印象を強く受けたのは,
「三度目の最後の大陸」.
非常に前向きなストーリーで,ハッピーエンドである.
爽やかな読後感に包まれる秀作であると思う.
彼女の別の作品集もぜひ読んでみたいと思わされた.
これは新潟で購入して,大阪に帰るまでの車中で読んだものである.
3.「沈黙ピラミッド」 上遠野浩平
ブギーポップの最新作.
(といっても出版は一昨年だが)
久しぶりに,多くの異なる視点からストーリーが
描かれていく構成となっており,面白く読めた.
私がこのシリーズに惹かれるようになったのは,
同様に複数の人の異なる視点から物語が語られることによって,
読者は全体像をつかむことができるという組み立てとなっていた
第一作「ブギーポップは笑わない」を読んでからである.
こうした凝った構成が,物語を複雑にするとともに,
パズルを解くような面白さを読者に与える.
ライトノベルと軽く見てはいけないのである.
最近の作品は残念ながら少し浅いような感じがしていたのだけれど,
この作品では,面白さが復活.
今後に期待がつながるものとなった.
これは金曜日,京橋で打ち合わせがあった際に,
北千里駅から京橋まで,そして京橋から自宅までの
移動の時間内で読み終えた.
読みやすいし,面白い.
中高生にはたまらない話だろうと思う.
4.「わが悲しき娼婦たちの思い出」 G.ガルシア・マルケス
これは中高生にはわからないだろうという小説.
「満九十歳の誕生日に,うら若い処女を狂ったように愛して,
自分の誕生祝いにしようと考えた」
というセンセーショナルな一文から始まる物語である.
とはいえ,全くエロティックな小説ではない.
(少なくとも村上春樹の小説よりは)
九十歳を迎えた文筆家である主人公の
14歳の女の子に対する,悲しくも滑稽なほど純情な
恋愛物語である.
訳者のあとがきにもあるが,この主人公は過去に
後ろ髪ひかれることもなく,あくまでも前向きに生きていく.
自らは自分の人生を情けないものとしているが,
彼の行動は読むものの心を暖め,勇気付けるものである.
私も思わず笑みを浮かべながらあっという間に最後まで
読んでしまった.とにかく面白いのである.
以前に読んだ同じ筆者による作品
「予告された殺人の記録」では,その舞台となっている街の
閉塞感,因習に縛られて生きる人間たちの絶望感などで
ずいぶん心が重くなったのであるが,この作品で
ガルシア・マルケスの印象がかなり変わったといえるだろう.
この作品を彼は2004年,つまり77歳で書いている.
その活力にまず脱帽せねばならないだろう.
77歳で,14歳の女の子への純情恋愛物語が書けるだろうか?
いや,だからこそ滑稽で美しい作品になっているのだけれど.
この作品は意外に短い.
ぜひぜひお薦めしたい一品となった.
(誰に推薦してあげようか...)
話は変わるけれど,この作品にはクラシック音楽のツウ処の
曲がいくつか出てくる.
カザルス演奏のバッハの無伴奏チェロ組曲,
アシュケナーゼ(アシュケナージとは違うピアニストらしい)演奏の
ショパンの24のプレリュード,
チボー・コルトーのフランクのバイオリン・ソナタの演奏会,
ワグナー(実は偽作)のクラリネットと弦楽のためのアダージョ,
ドビュッシーのサキソフォンのための狂詩曲,
ブルックナーの弦楽五重奏などなど.
私も未聴の曲も多い.
こうした曲をいつか聴こうと思うのもまた楽しみのひとつである.
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その他,「天才アラーキー 写真ノ時間」なんて本も読んだけれど,
ちょっとわからなかった...私はやっぱり芸術家ではないらしい.
ということで,読書三昧に十分満足の週末だった.
また新しい週に向けて活力が湧いてくる.
...いや,もちろん,いろいろな論文も読んでおります,ハイ.
あくまでも仕事の反動ということで...
2010年1月11日月曜日
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