2011年11月7日月曜日

天人五衰

仏教によれば,死後に六つの世界があって,
その最上界が「天上界(天道)」である.
(ちなみにその他は,「人間道」,「修羅道」,「畜生道」,
「餓鬼道」,「地獄道」)

天上界というのは,いわゆる天国で,
そこには天人(天女)が住んでいる.
もちろん,苦しみが無い世界で,
毎日楽しく暮らしているのだという.

しかし,そんな彼らにも悩みがある.
彼らも「老い」,「死」からは逃れることができないのだという.
そして,「死」の前兆として,5つの変化が
訪れるのだといわれている.

「衣服が垢で汚れる」
「髪飾りの生花が枯れる」
「身体が汚れてにおうようになる」
「腋の下から汗が流れる」
「自分の席に戻るのをいやがる」

これらを天人五衰と呼ぶ.
いくら天上界に住んでいても,
こうした苦しみ(煩悩)から逃れることができない.
なんと悲しい話だろう.
結局悲嘆に暮れて死にいたり,
また別の世界に生まれ変わらなければならないのである.

この話でまず思い出すのは,三島由紀夫の
「豊穣の海」の第4巻ではないだろうか.
残念ながら私は未読なのだが...
いつか読んでみたいと思っている.

次に,この話が強烈に印象に残っているのが,
京極夏彦の「魍魎の匣」である.
素敵な女の子もいつか衰えていく.

女の子が美しさの絶頂にあるときに殺してくれる
死神(ブギーポップ)の話もそんな苦しみから生まれたに違いない.

天人五衰の話は,天国に生まれても,
また別の世界に輪廻することを示している.
この輪廻転生のリンクから外れるためには,
「悟る」ことが必要であり,それができるのは
悲喜こもごも経験できる「人間界」だけである,というのが
仏の教えということらしい.
(だからこの世に生まれてきたことを感謝する)

日本には,昔から諸行無常という考えがある.
こうした天人五衰の話もそんなところから
日本人に受け入れられ易いのだろうと思う.

先日,父の一周忌のときに住職が天人五衰の話を
されたのを聞いて,いくらか思い出したので,
少し文章を書いてみた.




0 件のコメント:

コメントを投稿

言葉が世界を単純化することの副作用

 人間がこれだけの文明を持つに至った理由のひとつは「言葉」を用いることであることは間違いないと思う。「言葉」があれば正確なコミュニケーションができるし、それを表す文字があれば知識を記録として残すことも可能である。また言葉を使えば現実世界には存在しない抽象的な概念(たとえば「民主主...