あなたには生殺与奪の権を任せることができる人がいるだろうか。すなわち,その人が私を殺そうとすればすぐに殺すことができることができる人,自分の命を預ける人が。
私には思い当たる人がひとりいる。それは,いつも通っている床屋の主人である。
床屋ではカミソリを使って顔の毛を剃る。このとき,カミソリの刃は私の首筋に当てられている。そう,主人に魔がさして悪い考えが浮かび,そのカミソリをちょっと横に引くだけで私の命はなくなるのである。実は私は顔を剃るたびにそのことを心の中で思っている。
もちろんそんなことは起こらないと主人を信用しているのだけれど,それはなぜかと考えてみた。
それは主人が私にそんな悪い考えを持たないと私が思っているからである。主人にそうする必要がない。私を殺そうとする動機がないからである。それくらい良い距離感で人間関係が薄いからである。もしも変に知り合いで,お互いなにか心の中に抱えているのであれば,とても怖くて顔を剃らせることはできなくなるだろう。床屋の主人と客というほどほどに薄い人間関係こそが,私を主人に生殺与奪の権を任せることができる理由なのである。
漫画「北斗の拳」において,敵となる北斗琉拳の遣い手の将,ハンのエピソードとして,ハンがハンの髭を剃る男の心の動きを察して,カミソリをもつ男を震え上がらせる場面がある。あんな風に私も人の心の動き,他意を察知することまでできるように精進したいものである。
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