キャンパスの掲示板で見かけた『攻殻機動隊』——科学技術立国の幻影とディストピア化する未来像

 学内の掲示板で,「攻殻機動隊」のポスターを見つけた。文科省の「科学技術・イノベーション白書」の宣伝らしい。最近,オリジナルの「The Ghost in the Shell」のアニメが制作され放映開始となったことを知っている。確かにこの作品はハードSFに分類されるだろうから,SF好きな理系少年少女の興味を惹いてくれることを期待したいけれど,押井守の映画でさえ知らない学生が多いから,どれだけの中高生の興味を惹いてくれるかは残念ながら少し怪しいと思う。

掲示板で見つけた文科省のポスター

昨年のこのポスターではたしか「Dr. STONE」が採用されていた。私は読んでいないけれど,どうも実際の科学考証にもとづいたネタを使った人気漫画だったらしい。同僚の先生に「Dr. STONEって知ってます?」と聞かれて驚いたことを覚えている。学生に尋ねてみたのだけれど,残念ながらこちらのポスターの認知度はたいへん低かった。

しかし,文科省はこうしたアニメや漫画に頼って少年少女への科学・工学への啓蒙をするしかないという状況がなんとも理工系への不人気を表しているようで,ほんとうに悲しい。昔はこんなことを言わなくても,「科学技術立国 日本」という看板を背負って理工系に進む学生が多かった。理工系に夢があった。

しかし,現在は理工系の研究者・技術者になることが社会的にあまり成功と思われていないようだ。この理由は一にも二にも理工系の人たちの給与の低さが社会的な評価を下げているからだと私は思っているのだけれど,それに加えて科学技術はどこか社会を支えるものではなく,「敵」だと思われているフシがあるからのように思われる。極度に進んだ科学技術は人間社会の安定を脅かすものだと私たちはどこかで思っているのではないだろうか。

映像化されるSF作品の多くが輝く未来ではなくディストピアを描いているからかもしれない。AIだってすでに多くの人が便利だといって使っているわりにその進化には不安を抱いているように思われるし,人類がこのまま順調に発展していくと思っている人はそんなに多くないのではないかと思う。そうした社会的課題や不安を解決するための人類の武器が科学技術であるはずなのに,潜在的な危険ばかりに目を向けて科学技術から遠ざかろうとしているような雰囲気が特に子供たちの間にあるのが心配なのである。

ずいぶん前に肥後守を使えない子供たちが増えてきたというニュースが話題になっていた。ナイフは人を傷つけることもできるけれど,生活を便利にするために上手に使うこともできる。科学技術も同様で,危険だからといって開発・利用をしないのはたいへん残念である。

アニメや漫画でもいいので,科学技術のポジティブな面に光をあてて,人類に夢を与えるようなSF作品がもっともっと制作されればいいのに,と心から思っている。

#押井守が世界で名を挙げた映画のタイトルは「Ghost in the shell/攻殻機動隊 」(1995)で,”Ghost"に"The"がついていないことに気づいた。押井作品に定冠詞がついていないGhostを使っていたのはなにか意味があるのだろうか...

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