2009年9月10日木曜日

紀伊水道直流連系設備を見る(伊瀬研見学ツアー2009)

今日は例年開催されている
伊瀬研見学ツアーがあった.
今年の見学場所は,関西電力
「紀伊水道直流連系設備 紀北変換所」である.
研究室のスタッフと学生の合計24名で
バスに乗り込み,片道2.5時間の道のりを行った.

この直流連系設備は,
関西電力管内の和歌山県の紀北変換所と
四国電力管内の徳島県の阿南変換所を
250万ボルトの双極(2極)の直流(定格2.8 kA)で
結ぶものである.
紀北変換所から由良開閉所までは50.9 kmの
架空線で,そして由良開閉所から阿南変換所までの
48.9km(うち海底46.5km)は地中線で接続されている.

徳島の橘湾石炭火力発電所(合計280万kW)で
発電された電力を関西電力エリアに融通しようという
目的で建設されている.
もちろん,交流で連系することも考えられるが,

(1)四国と本州は香川県の讃岐と岡山県の
東岡山において既に交流連系されており,
阿南と紀北を交流でまた連系すれば,
電力系統にループが構成されてしまい,
制御が難しくなること予想されたこと,

(2)建設コストが直流の方が安くなること,

などから直流連系で実現されたものである.

交流から直流に変換するためには,
半導体変換器を用いる.
このような大容量変換器(140万kW出力)に
おいては,コストなどの面からサイリスタが
スイッチング素子として採用されることが多い.
この変換器には,日本で最大級の6インチサイズの
8 kV, 3.5 kAの光トリガサイリスタが使用されている.
この設備の運転開始は2000年6月だったというから,
当時は世界最大のデバイスであっただろうと思われる.
この変換所のために,開発されたのだ.
これを40個直列にすることによって,
25万ボルトの電圧に耐えるのである.

変換器は6ないし7個のサイリスタを直列に接続した
スタック(スナバ,アノードリアクトル,冷却装置含む)を
1モジュールとして,これを6個直列接続して1アームを
構成する.これを3相分揃え,
また1極について移相した2つの変換器があるから,2倍.
そして2極分でさらに倍.
約1000個のサイリスタが使用されていることになる.
このサイリスタ,1個で自動車が優に1台購入できる価格と
いうから,たいへんなものである.

組みあがったサイリスタバルブは,
下から見上げるほどの偉容を誇っており,
アノードリアクトルが奏でるノイズは
説明が聞こえないほどうるさかったけれど,
とにかく大きくて大変印象深かった.

学生たちも積極的に質問してくれて,
本当に素晴らしかったし,うれしかった.
変換器だけでなく,その制御方式や直流遮断器,
事故検出など,なかなか伺うことができないお話を
たくさん教えていただいた.
こうして現場で聞いた学問は,
すぐに身について,忘れにくいものである.
見学という勉強の素晴らしさである.

変換器は,紀北は日立,三菱,阿南は東芝が
製作しているという.
光トリガサイリスタ(LTT)は実は日本が世界に先駆けて開発し,
誇るべきデバイスだったのだけれど,
現在,日本のメーカは市場の小ささを理由に
生産を行っていない.
海外メーカが大容量LTTを生産しているのである.
本当にさびしい話である.

技術的な話は山ほど書きたいことがあるけれど,
このブログでは,ここまでにしておこう.

今日はこうした施設を見て,
かっこいいといっている学生が多かった.
そうした感覚は普通ではないけれど(笑),
大変頼もしく思う.
いいぞ,電力工学的人生!

#メモ
無効電力補償99万kVAR
DCインダクタ1H (両変換所それぞれ),
送電線インダクタンス110mH,
DCフィルタ720Hz,
ACフィルタ780 & 660Hz,
変換器用変圧器,一次側中性点5 ohm 抵抗接地,
阿南側は塩害対策ですべて密閉式,
直流遮断器はLC共振方式,遮断は10ms程度か,
現在は25万Vなので2線,
50万Vの場合は4線とする(コロナ対策)

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