スマートグリッドの一要素として,
スマートハウス,すなわち
Home Energy Management System (HEMS)への
注目が高まっているようだ.
(ちなみに,オフィスビルのエネルギー
マネジメントシステムはBEMS,
コミュニティとかクラスタとか呼ばれる地域の
システムは,CEMSなどと呼ばれる)
これが日本の電力業界において,
なにが画期的なことになるかというと,
需要家の負荷遮断を行う可能性がある,
ということである.
これまで日本の電力という世界においては,
勝手に需要家への電力供給を停止するなどということは
電力会社の矜持にかけてもあり得なかった.
(だから今回の計画停電は,電力会社としては
忸怩たる思いであったろうと推察される)
家庭内の電気機器についても同様で,
電力会社の都合で,勝手に機器をオン・オフ
するなんて,とても許されるものではなかった.
それがHEMSが導入されれば,
優先度の低い負荷(たとえば洗濯機とか,
食器洗い機とか)を,電力需要のピーク時に
停止することによって,需要のピークカットあるいは
ピークシフトが可能となるのである.
(もちろん,需要家の了解のもとでだけれど)
もちろん,普及のためにはいくつも課題がある.
たとえば,導入が検討されているアメリカなどでは,
リアルタイムで電力価格が変動する地域もある.
すなわち,電力需要のピーク時には電力単価が高くなり,
深夜などは低くなる.
したがって,HEMSが導入されている需要家は,
ピーク時での電力消費を抑制することによって,
電気料金を低く抑えることができるのである.
一方,電力会社も電力の供給不足を軽減することができる.
どちらも利益が生じる構造になっている.
一方で日本ではどうか.
負荷が勝手に遮断されて,不便を被るのは需要家である.
もしもアメリカのように電力料金でメリットがでないのであれば,
需要家はHEMSを導入するインセンティブが与えられない.
これでは普及は進まないだろう.
日本では,リアルタイムで電力価格を変動させるのは
難しそうだから(スマートグリッドで高速な通信網が導入されれば
可能かもしれないが...),契約電力が安価になるなどの
インセンティブを与えることが必要だろう.
次の問題は,規格の問題である.
これについては以前に記事を書いたので,
そちらを参照されたい.
スマートハウスへの遠く長き道
また,通信の問題も大きい.
各家庭と電力会社を直接接続するのは,
その通信量や扱うデータの膨大さから
ほとんど不可能だろう.
したがって,階層構造で情報を統合し,
あるいは中央から指令を出すようなシステムになる.
しかし,それでも通信データの量は非常に多くなることが
予想される.
どこかで,日本のスマートグリッドは通信を30分おきに
しかできないのは,遅れているなどという批判の記事を
読んだけれど,たとえば1秒おきにしたとして,
増大するデータをどう処理するつもりなのか.
また,現在,日本では電力の需要は30分間で考えるのが
一般的である.だから,日本のマイクロ(スマート)グリッドでは
そのように設定されているのである.
また通信には,セキュリティの問題がつきまとう.
スマートグリッドには専用回線を使用するべきだという議論が
アメリカでは強い.特にエネルギー・電力への
テロに関して不安が大きいようである.
しかし,専用回線を引くとしたら,
どれだけの設備が必要になるのか...
ということで,最大の課題はやっぱりコストである.
(そんなこといわなくてもわかりきっていることなので,
書きたくないのだけれど...)
少し考えればわかるように,負荷遮断を実現するためには
家電がHEMSからの指令を得て,
勝手にオン・オフするという機能を負荷することが必要である.
先に述べた規格が決定していることが前提であるが,
その機能のために(通信など),新たなコストが必要となる.
あるいはそれぞれの機器ではなく,
インテリジェントな配電盤を導入するという手もある..
しかし,そのためには各コンセントに対応してひとつずつ,
制御可能なスイッチが必要となる.
これもかなりのコスト高となるだろう.
また,アイロンや電気ストーブなどは,勝手にスイッチが
入って危険な状況になるということも考えられるから,
接続には注意が必要になったりする.
それぞれに,インテルが開発しているような
スマートグリッド用のAtomプロセッサーが搭載されるとしたら,
どれだけのコストが必要か.
それを誰が負担するのか.
それだけのメリットを需要家は享受できるのか.
そうした議論を踏まえた上でなければ,
HEMSの普及は進まないのではないか.
スマートグリッドはあったら便利で,
誰もが期待しているけれど,
こうした課題を解決していく必要があることも
忘れてはいけない.
#その他にもスマートグリッドについての記事書いてます.
電気学会関西支部講習会「スマートグリッド」
マイクログリッド導入のメリットは
電気学会電力・エネルギー部門大会(九州大学)
#スマートグリッドで重要なのは,ICT技術である.
2000年代になって,アメリカでのPC関係における
IPアドレスの増加は飽和してきた.
そこで,Intelなどは新たな市場を家電に求めた.
各家庭,いや家電一個一個にIPアドレスを付与すればいい.
それがすなわちスマートグリッドである.
スマートグリッドは,そんな風に始まったと言われている.
スマートグリッドは,電力業界というよりも
ICT業界先行で進められているようだ.
2011年4月12日火曜日
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