私は少なくない頻度で,見も知らない人に話しかけることがある。もちろん一番多いのは,学生相手だけれど,街中でも知らない人と会話を始めることが結構な頻度である。
街中では話しかけられて会話が始まることが多いけれど,学内では学生に私から話しかけることが多い。他愛のない話をするのである。
人に話しかけるときには,ちょっとした間(タイミング)が大切である。このタイミングを逃すと,相手に言葉が届かなかったり,届いたとしても相手が拒否する反応を起こすことになってしまう。相手がついつい会話に参加してしまうようなタイミングというものが,どうも存在するようなのである。
まずは相手に自分の存在を認識してもらうことが大切である。相手に突然後ろから声をかけたら,あるいは物陰から相手に声をかけたら,たぶん相手はびっくりしてしまうだろう。これではいけない。私がいるということをまずは相手に知ってもらわなければならないのである。
次に警戒心を持たれないようにすることが大切である。私などは人相が悪いから笑顔であることが必須である。敵意を持っていませんよ,と相手に表情,姿勢などで伝えることが必要である。もちろん,相手へ近づくときも,相手が認識できるように,そして真正面から向き合うのでもなく,斜め後ろ,あるいは横に並んで,同じ方向を向いて話しかけるなどの工夫が必要である。
そして相手の緊張が解けるタイミングで話しかけることが大切である。相手を見ていると最初私が近づくことによって緊張するが,敵意がないとわかると相手の無意識の緊張が解けるのがわかる。それから話しかけるようにするのが良い。
最後は,言葉のかけ方である。もちろん大声などで話しかけたら相手はまた私に警戒し始めるだろう。あたかもそれまで会話をしていたかのような雰囲気で話しかけるのがよいのである。相手もつられて会話に参加してくれる。それが理想である。
私は無意識のうちにこうしたことを行っていたと以前に気づいてから,もう少し意識的にそのスキルを磨きたいと思った。しかし,意識的に行うことがむしろ相手に緊張をもたらし,あまりうまくいかないことも多いことを知った。あくまでも無意識的に行うことが大切なのである。武道と一緒でなかなかに難しい。