アーサー・C・クラークが亡くなったのは
今年の3月のこと.
SFに詳しくない私でも
彼の名前は知っていたし,
究極の科学は魔法のように感じられる,
という彼の言葉もこのブログで紹介した.
実は彼の作品はこれまで読んだことが
なかったのだけれど,
先日の帰省の際に,電車の中で1冊
読了した.
「幼年期の終わり」
これが光文社の古典新訳文庫から出ており,
「カラマーゾフの兄弟」とともに
並んでいるのだから,このクラークの作品は
すでに古典と認識されているのだろう.
実際には,この作品は1953年にまとめられているので,
ちょっと古典としては若いような気もする.
しかし,この光文社の新訳は,
クラークが発表から36年も経って
書き直した部分(第1章)について邦訳されているから,
昔の訳(ハヤカワ文庫)になじんだ方にも
新しく読めることになっているのだろう.
(私は昔の訳は読んでいない)
実際,この新訳は非常に読みやすく,
物語の面白さもあって,私は
あっという間に最後まで読み進んでしまった.
これが50年以上の前の作品とは思えない.
確かに,テレタイプだとかFAXによる新聞配信など,
現在だったら,インターネットと携帯電話で
済まされるような古めかしいワードも見られるのだけれど,
みなが情報を即時共有する,というその概念については
全く先取りしているのだから,本当に驚いてしまう.
有名な作品らしいので(「古典」ですから)
内容については紹介を略すけれど,
これは一度読むに値する小説だと,
人におススメできる本だと自信を持って言える.
ただ,私にとって一番おもしろかったのは,
作品本文ではなく,クラークの手による序文である.
彼はこの作品を書いた頃には,
人間の精神の進化への憧れがあって,
(これは後の「2001年宇宙の旅」などの
作品にも継承されているのだろうけど)
その進化の過程で人間のまだ明らかになっていない
潜在意識の能力に多分に期待していたらしい.
(テレパシーとか念力とか)
この序文においても,最初はユリ・ゲラーを
一部信奉していたフシが読み取れる.
しかし,彼はその後の検証を行い,
オカルティックな事象の99.9%は本当ではないと
はっきり言っている.
(すべてのそうした事柄が意味がないとは
言いきれないともいっており,それが0.1%らしい)
人間の偉大なる意識の潜在能力への憧れは,
現在でもある.
それが今の「脳」ブームの一因に
なっているのだろうと思う.
しかし,潜在能力を開発することによって
お手軽に天才になる方法など存在しないことも
もうはっきりしているのではないか.
(いくら脳力トレーニングだけやっても
創造力が強くなるとは思えない.
一方で,認識力の低下は防げると思うけれど)
結局,都合のいい魔法はないのである.
クラークの作品においては,人間の意識の進化は,
異星人によって手助けされるのだけれど,
現状,私たちはそれを望むべくもない.
結局,私たちは,私たちの努力によってしか,
変わることができないのだろう.
2008年8月21日木曜日
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