また,小林秀雄の講演の中から.
彼が伊藤仁斎の私塾に関する話を紹介している.
仁斎は,本居宣長のように医者を家業として
お金を稼いでいたわけではなかった.
仁斎は私塾「古義堂」を開き,そこに集まる弟子たちの
月謝によって生活していたのだという.
(かなり赤貧だったとの話も残っているが)
私塾には,多くの階級にわたって,
宮廷の公家や武士,豪商,
そして百姓まで通っていたのだという.
そして,私塾に集まった豪商たちは,
こういったのだという.
「これまで,酒や女などのいろんな道楽をしてきましたが,
学問ほど面白いものはない」
だから,彼らはお金を払って学問をしにきていたのである.
百姓たちもそうである.
少ない稼ぎの中から月謝を払って,
遠い山奥からわざわざ京都まで出てきて学問をする.
これもまた学問が面白くて仕方がなかったからである.
なぜ学問をそこまで面白いと考えたのか.
それは,学問が人生について
教えていたからなのだそうである.
学べば学ぶほど,正しい生き方というものがわかる.
生きていく意味がわかる.
そう思ったからこそ,月謝を払ってでも
学問をしようと考えたのだという.
この大学に初めて来たとき,
ある学生が,学費を支払っているのだから,
学位をもらって当たり前だなどと話しているのを聞いて,
本当に怒り心頭に発する思いをしたことがある.
一体,これはどういう違いなのだろう.
学問とは,面白くて仕方がない.
そしてそれは人生の深遠に通じるものであるべきである.
学問は,自発的に行うのが本来である.
そんな当たり前のことを,
小林秀雄の講演を聴いて,
あらためて思い出したのである.
ただ,そうした人生に深遠に通じるような
講義を私が行えているかと思うと,
それも全く自信がないのも事実なのだけど.
2008年8月11日月曜日
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