父が倒れたのは,4年半前にさかのぼる.
(というか,ずっと前から身体は悪かったのだが)
緊急手術を行って,術後はずっと父は
ICU(集中治療室)にいた.
そして私たち家族はずっとICUの近くの控え室にいた.
10日くらいそこにいただろうか.
ICUだから,次々と緊急を要する患者が運ばれてくる.
病院の前に救急車が着くたびに,
ストレッチャーが救急医療センターに入ってくる.
患者は手術室に慌ただしく運ばれ,
その家族はうなだれて私たちのいる控え室にやってきた.
もちろんそうした家族の表情はみな固く,
声をあげて涙を流している人を何人も見た.
ICUから出て行くには二通りある.
少し回復して一般病棟に移る場合と,
エレベータから遺体搬送車へ運び込まれる場合とである.
後者の場合である患者の家族を
私はいくつもその控え室で見た.
なんと世の中は無常なのかと思った.
そして自分の家族がいつかそのような状況になるかも
しれないと恐れた.
それほど,その場所は生と死が隣接していた.
4年半前は,父は生還した.
リハビリを経て,自宅に戻って外出も
できるほどになった.
(ずいぶん身体は不自由になったけれども)
しかし今回は,父は戻らない人となった.
ほんのちょっとの分かれ道なのだと思う.
4年半前,控え室でなにもしないで
待っているのがつらくて,小説を読むようになった.
そのときに初めて村上春樹の作品を手にした.
「ノルウェイの森」もそのときに初めて読んだ.
「死は生の対極にあるのではなく,
我々の生のうちに潜んでいるのだ」
という言葉がひどく身にしみたことを
今でも良く覚えている.
2010年11月9日火曜日
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