2011年5月2日月曜日

再生可能エネルギーが主力になるのは難しい

今日は,「いちょう祭」ということで,
大学の研究室が公開され,学部1年生や,
一般の方々が研究室を見学に訪れた.

私も少しだけ見学者の相手をして,
なるべくわかりやすく説明したつもりなのだけれど,
パワーエレクトロニクスがどのように社会に
役立っているか,わかってもらえたか不安...
こういう機会こそ,なんとか科学技術を
身近なものに感じて欲しいのだけれど...

研究室は,パワーエレクトロニクス技術の
主に電力応用を研究しているので,
やはり現在,深刻な状況になっている
電力について質問が出た.
(答えられるだけ,頑張って答えてみましたが)

研究室のテーマは,太陽光発電や
風力発電,そしてガスエンジンコジェネなどの
分散電源の高効率化・高機能化であって,
マイクログリッドやスマートグリッドへの応用を研究しているので,
原発に反対か,と思われるのだけれど,
私は原発に反対でも賛成でもない.
もしも経済的に成り立つのであれば,
(すべてを含めて)
原発も選択肢のうちのひとつであると思う.
(すくなくともイニシャルコストは低い)

ただ,正直なところ,日本ではこの先
原発の建設は難しいだろうと思うので,
その解はないのだろうと思う.
しかし,その代わりの解決策が本当に見つからない.

個人的には,二酸化炭素排出を削減するという
京都議定書,そして鳩山元首相が宣言した
25%削減という目標を破棄して
(議長国だったのにかっこわるいけれど)
この10年くらいは火力発電にシフトしていくしかないと思う.
脱原発を目指すのであれば,これから20~30年とかの
スパンで考えて,新たな代替発電を開発していくのだろう.

一方で,太陽光発電や風力発電が,
主力の発電手段になるという主張には懐疑的である.
少なくともこの5年~10年くらいには難しいのでは
ないかと考えている.

もちろん,こうした再生可能エネルギーの利用は
今後も進めていかなければならないし,
私もそれが少しでも効率よく発電できるよう,
研究を進めていきたいと思っている.
そして,将来,ある割合を再生可能エネルギーが
発電電力に占めるようになるのは間違いない.
ただそれが近い将来,主力となるかというと,
それは難しいと思っているのだ.

何度も書いているように
再生可能エネルギーには本質的な問題がある.
そのうちのひとつは,出力が天候によって大きく
変動してしまうこと.
そして,またひとつは,エネルギー密度が低いこと,
である.
(他にも問題は多々あるけれど)

たとえば,太陽光は空が曇ればほとんど発電しないから,
梅雨が来れば一週間も発電電力無しの状況が続く.
ネットを見ていると電力を使わなければいい,
という人も多いようだから,
その方々は停電してもよいかもしれないが,
病院や学校,公共施設など,人の安全,健康に
関わる電力がそれでは困るのである.
したがって,バッテリのような電力を貯蔵する装置が
必要となるのだけれど,1週間分の電力をあらかじめ
貯蔵するようなバッテリは現状大変高価なのである.
現在の10倍くらいのエネルギー密度をもつ
画期的なバッテリが開発され,この5年のうちに
それが安価に市場に出回るようになれば,
状況も変わるかもしれないが,
そんなことを期待して,将来の計画を立てるわけには
いかないと思う.

また,短時間の発電出力の変動も電力系統の安定性に
非常に悪影響を与えるため,
これも電力貯蔵装置によって補償しなければならない.
繰り返すけれど,再生可能エネルギー発電には,
電力貯蔵装置(あるいはそれに代わる
高速な応答をもつ発電方法)とセットであることが
不可欠なのである.

これらの問題は,学会においては
ずいぶん前から議論されており,
この分野に携わる人は,
たぶん誰もが認識していることなのである.
これらが解決されない限り,
大量の再生可能エネルギーの導入は難しいのだ.

また,本質的に太陽光も風力もエネルギー密度が低いため
非常に大きなスペースが必要となることが問題になる.

風力については,日本には適地が少なく環境破壊の観点から,
今後は洋上発電が検討されると思うけれど,
それだって,大変大きな面積が必要となる.
現在,2~3MWクラスの風力発電機が最もコストエフェクティブだと
言われているけれど(ECCE2010でもそのような議論があった),
原発1基分の電力100万kW(=1000MW)と同じ発電容量に
するだけでも300~500基必要なのである.
(実際は稼働率を考えると,さらに何倍も必要となる)
3MWクラスの風車のロータ直径はおよそ90mである.
ジャンボジェット機(B747-400)の全幅が64m,
全長は70m程度だから,B747よりも大きいブレードが
ぐるぐると回っているという,巨大なものだから,
それが300基も回っていたらどのようなことになるか
容易に想像がつく.
(設備容量国内最大の新出雲風力発電所では,
3MWの風車が26基設置されているが,
人里はなれた場所に,間隔を十分にとっている)
環境に大きな影響を与えることは間違いなく,
浮体式であっても,漁業権の問題が大きな障壁となるだろう.
(環境省などは日本にはまだポテンシャルがある,といっているけれど,
実際に住民が納得する土地がどれだけあるだろうか.
もしもそうした問題が解決できて,
本当に経済的に成り立つのであれば,風力発電会社に
紹介してあげればよいのに,と思う.
国がいうように,補助金を出すシナリオに沿えば,それなりの導入が
見込めるのだろうか?)

風力はスケールメリットがある発電方法である.
すなわち,大型になればなるほどコストエフェクティブになる.
(もちろん,ある大きさ以上のロータは逆にコスト高になる.
だから2~3MWあたりが良いといわれているのだが)
一方,逆に小型の風車発電機を沢山設置しても
コストばかりかかってしまう.
さらに都市部の小型風車発電機の稼働率は大変に低いのは,
これまで街に設置された風車発電機の状況を見れば,
すぐにわかることだろう.
小型風車はなかなか経済的には成り立たないのだ.

なかなか風力は日本のような狭い国土では難しい.

太陽光ももともとエネルギー密度が低い.
太陽から得られるエネルギー密度は一般に
日中で1kW/m^2と言われる.
現在,太陽パネルの市販品で効率は15~20%程度だから,
150W~200W/m^2が得られる計算になる.
(Siの性能限界は30%程度と言われている.
新しい量子ドットと呼ばれるものは60%程度が
理想的には望めるようだが,現状16%程度らしい)
しかし,もしも理想的に100%の効率が得られたとしても
100万kWの発電容量を確保するためには,
100万m^2の面積が必要である.
1000m x 1000mということになる.
(もちろん,日照量が変わることを考えると,
さらに何倍も面積が必要となる)
膨大な面積が必要となるのだ.
日本にはそうした広大な土地が少ない.
ただ,住宅や公共施設,工場の屋根を使用できるとすれば,
ある程度の電力量は稼げるはずである.
それに期待しているわけである.
(しかし,電力系統に与える影響の問題は
依然残っているわけだが)

結局のところ,太陽光と風力というのは,
出力が変動するため,主力になるのは難しく,
大きな発電量を稼ぐためには
大きなスペースを必要とするので,
なかなか日本で適地を探すのは大変で,
大量導入にはまだまだ障壁が大きいのである.
近い将来に電力の主力になるのは難しいと思わざるを得ない.

これから20~30年は,脱原発とはいうものの,
再生可能エネルギーはあくまでも補助なのではないか,
というのが私の考えである.
(もちろん,研究には鋭意努力いたします)
ただ火力に頼るというのも,なかなか悲しい選択である.
なんとか良い発電方法があればよいのだけれど...

#マイクロ水力もなかなかコスト的に
収支が合わないという報告が多い.
もちろん,ラオスなどの非電化地域などでは
大活躍しているとの学会報告もあるのだけれど.

#最後に面白いツィッターまとめをご紹介.
よくまとめられていると思います.


keigomi29さんの(普通の)科学者と(三流)ジャーナリストの違いに関するツイートのまとめ。

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