2020年12月3日木曜日

すべては幻想だったのか

 私の記憶が確かならば,松田優作がこの階段の中ごろで死んだはずである。すでに死んだはずの室田日出男の幻影を見つつ,どこからか何発も狙撃されて。場所は日比谷公会堂。

もちろん,映画の話である。

「野獣死すべし」

私がこの映画を観たのはたぶん高校生の時。そのラストシーンに本当にびっくりした。伊達(松田優作)は,コンサートでショパンのピアノコンチェルトを聞いているうちに居眠りしてしまう。目が覚めるとなぜか会場には誰もいない。彼自身もなにが起こったか理解できない。

ホールを見回し人差し指を挙げて,「あっ」と声をあげてもがらんとした会場に響くだけ。出口に向かい,もう一度,「あっ」と叫んでもかわらない。名残惜しそうに後ろを振り返りながら会場を出ていく。

そして公会堂から出てきて,この階段。本を抱えて中段まで下っていくと突然狙撃音がして彼が撃たれる。彼自身もそれを理解できていたのかどうか。続いてまた撃たれて倒れる。そしてなぜか陽炎の中に浮かび上がる自分を追っていた刑事(室田)の姿を認める。伊達は散らばった本をかき集めようとしてまた撃たれ,手すりにすがりついてストップモーションのままエンディング。

観ている方も,全く何がおこったか理解できない。一体どのように解釈したらいいのか。しかし,だからこそいまだに強く記憶に残っている。

結局,すべては彼の幻想だったのだろうか。


#今考えてみると,「野獣死すべし」は高校時代に最も影響をうけた映画なのかもしれない

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