映画を見終わったときに,タランティーノは何をこの映画で描きたかったのだろう,と思った。ディカプリオ演じる俳優とブラピが演じるスタントマンとの男の友情なのか,それともその時代のハリウッドの夢のような情景なのか,正直,よくわからない。まぁ,彼の作品はどれもそんな感じで,単に楽しめれば良いということなのかもしれないけれど。なぜか彼の以前の作品である「デス・プルーフ・イン・グラインドハウス」を思い出した。
ディカプリオは全盛を過ぎた西部劇の,彼自身も全盛期を過ぎた俳優を演じていて,その辺の悲哀,情けなさがよく伝わってくる。結局,マカロニ・ウエスタンの作品に何本か出て引退を考えるのだけれど,彼が踏ん切りをつけるまでのゆっくりとした心境変化が見ているこちらにもつらい。
一方,ブラピが演じたスタントマンの役は,先のことはあまり考えていない少し現実感がない男で(映画を観ながら,「もっと生活のことを考えろよ!」と思ってしまった),スタントマンとしてはたぶん信頼できる,義理堅いタフガイなのだろうけれど,どこか浮世離れして足が地についていない感じ。ディカプリオとの友情があるのか,ないのか,よくわからないふわふわとした少し不思議な関係が,その時代の夢「ハリウッド・ドリーム」を映し出している。
マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートは,実際には知る人ぞ知る(私ももちろん知っていた)カルト教団の惨殺事件の被害者であるけれど,この映画ではそうした結末にならない異なる世界線の話になっていて,彼女がシンボルとなっているハリウッドの夢は最終的に守られることになる。そこにタランティーノの夢が投影されているのだろう。私もこの結末には幸せを感じた。彼女は本当に夢のようなチャーミングさを体現していて,本当にそんな人がいたのであれば,周りの人は好きにならずにいられなかっただろうと思う。そういえば,「デス・プルーフ...」にも,青い目をしたブロンドのお人形のような女の子が出演していたように思うけれど,タランティーノにとって彼女たちは夢の象徴なのかもしれない。
一方,この映画でちらりと出てくるブルース・リーの描かれ方はひどくて,遺族などが映画会社に抗議したというのもよくわかる。口ばっかり達者なひ弱な東洋人でしかない。現実は違うのだろうけれど,その当時ハリウッドからみた彼のイメージとはそんなものだったのかもしれない,と思わせる。
とにかく,観てなにか感動する,といった映画ではないけれど,ところどころに見どころがある映画だと感じる(タランティーノらしい)。たぶん映画マニア向けなのだろう(私は違うけど)。タランティーノはあともう少しで引退すると言っているけれど,まだまだ頑張って欲しい監督なのは間違いない。
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