太陽光や風力などの再生可能エネルギーの分散電源が電力系統に大量に導入しなければ,2050年のカーボンニュートラルは実現しないであろうことは誰でも知っている。しかし,これらの分散電源は,従来の「お湯を沸かして蒸気でタービンを回し,回転機である発電機で発電する」という方式ではなく,それらのほとんどが半導体電力変換器である「インバータで発電電力を変換する」という方式を採用しているために,これまでと違った問題が電力系統に引き起こされることが予想されている。
たとえば,そうした問題の一つが「慣性の不足」である。電力系統で発電所が脱落する(系統から解列する)などの事故が起こった場合,これまでの電力系統では電力の変動に応じて,回転機である発電機が加減速することによってその急激な変動を吸収し,電力系統の周波数がゆっくりと変化するようになっていた。この周波数の変化率を緩和する効果を系統の「慣性」と呼ぶ。
しかし,インバータで電力を変換する方式では,電力変動を吸収しようにも回転機ではないので,変動が起きようとも指令値にしたがった電力を出し続けようとする。すなわち,急峻な電力変動は緩和されず,周波数は過渡的に大きく変化することになってしまう。こうした急速で大きな周波数変動が起こってしまうと発電機は自分の身を守るために電力系統から解列してしまい,最悪,広域の大規模停電につながるおそれがある。
これは回転発電機(同期発電機)と違い,インバータが電力指令値(電流指令値)によって制御されているからで,これらのインバータを電力系統の電圧と周波数に従って電流を制御していることから,グリッド・フォローイング・インバータ(Grid Following Inverter, GFL)と呼ぶ。GFLは電力に動揺が発生しようが,われ関せずと指令値にしたがった電力を出力しつづける。だから,従来の同期発電機に代わって分散電源が大量に導入されて,同期発電機の割合が少なくなってしまうと,慣性の効果が小さくなって系統は不安定になる。
一方,この問題を解決するために,従来の発電機と同様に自分で電圧振幅と周波数を決定して,たとえ自立してでも電力系統を構成し運転を継続できるような機能を制御によって付与したインバータが研究されている。これらは,グリッド・フォーミング・インバータ(Grid Forming Inverter, GFM)と呼ばれている。代表的なものに,同期発電機を模擬した挙動をするように制御される仮想同期発電機(Virtual Synchronous Machine, VSG)制御が挙げられる。VSGインバータは電力貯蔵装置などを用いて慣性を持たせることができるので,系統の安定化に貢献できると期待されている。
さて,GFLやらGFMやらとややこしいのだけれど,その他にも電力系統を安定化するように電力(有効電力,無効電力)を出力(あるいは吸収)するように制御されるインバータが機能別に分類されていて,これらは電力系統をサポートするということで,グリッド・サポーティング・インバータ(Grid Supporting Inveter)と呼ばれている。
最近目にしたのは,グリッド・ファイティング・インバータ(Grid Fighting Inverter, GFT)である。Fightingというのはどういうことかと思って調べてみると,どうもそれは電力系統の電力動揺を打ち消すようにはたらく機能らしい。過渡的な電力動揺だけでなく,系統が基本的に有している共振要素に起因する振動に対しても効果があるのだという。日本において,西側60Hz系統においては,約0.4Hzの電力動揺が常時継続していることはよく知られている(?)けれど,こうした広域の動揺に対しても安定化効果を有するらしい。フェイザー計量器(Phasor Measurement Unit, PMU)を用いた広域同期制御が特徴のようである。確かに将来的には広域の系統制御にもGFMは使用されるべきであろうとは思うけれど,誰がそのコストなどを負担するのか,技術的だけではなく社会的な問題も絡んでいて実現までには遠いかな,とも思う。
とにかく現在GFMは注目されていて,電気学会の全国大会や部門大会では半日という長い時間をかける関連セッションが3つほども開催されるほどである。ただし,上記のようにいまだ概念が整理されているようではないようだ。技術の黎明期にありがちな状況である。こうした概念を整理していくのも,学会そして我々のような研究者の役目と言えるだろう。
この記事の続きはこちらから。必ず読んでいただきたい(4月2日公開予定)。
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