2023年11月18日土曜日

すべて忘れてしまうから

 「すべて忘れてしまうから」というTVドラマを観ている。主演は阿部寛。作家の主人公の彼女(尾野真千子)がある日突然いなくなってしまう。そんなことから始まる物語である。彼女がいなくなって,彼女に対する気持ちだけでなく,自分のことがわかりはじめるのが面白い。阿部寛の情けない男の演技も魅力的だけれど,出演者もちょっと癖のある人ばかりで,ついつい観てしまう番組なのである。

物語には彼女の失踪話を中心にしていろいろなエピソードがちりばめられているのだけれど,それらがいちいち絶妙な話なのである。「絶妙」というのは,日常の範囲を超えるような話ではないけれど,それでいて心が1ミリだけ動くようなちょっとした出来事であって,大きな感動などでは全然ないところがミソである。

しばらくして,このドラマには原作があることを知ってさらに驚いた。なぜなら,話があってないようなドラマだから。どうも原作は「燃え殻」という作者の同名のエッセイ集らしくて,そのエッセイで紹介されているエピソードを脚色してドラマに取り入れているらしいことがわかると,そのエッセイが読みたくなって,とうとう購入してしまった。

「燃え殻」という人は,遅咲きの作家で,日ごろはどうもTV製作の下請けの仕事をしているらしく,小説は5年ほど前に処女作を出している。エッセイ集はSPAなどに連載しているものをまとめたもので,そのひとつが「すべて忘れてしまうから」ということになる。

エッセイ集にある各エピソードは3~4ページほどなのだけれど,やはりどれも絶妙なところを突いている。ちょっとだけ心に引っかき傷をつけるような話ばかりである。どう傷つけるかと言われるとそこが説明が難しくて,こればかりは読んでもらうしかないのだけれど,作者は自分と同じように(そしてみんなと同じように),心を傷付けながら生きてきた人なのだとは理解できる。

多くの人が日々いろいろな出来事に傷ついて生きているわけで,それらをいちいち記憶にとどめていたらとてもやっていけない。しかし,この作者はそんな生活の中で忘れ去られている小さな出来事を丁寧に拾い上げて作品の中にとどめている。だから読むと心が少しだけ動くのだろう。

TVドラマの方は,彼女探しの経糸の物語があってその結末が楽しみなのだけれど,一方で原作のエピソードがどのようにに紹介されていくのかも楽しみなのである。

そして今回は珍しく本を購入して読み終えることができそうである(実はまだ最後まで読んでいない)。

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