この前,新潟に帰郷したとき,
ある若い女性が仕事を辞めた話を聞いた.
あるとき,会社の上司にコピーをとれと言われ,
その女性は,
「そのコピーは誰にでもできる仕事ですか」
と尋ねたらしい.
「私は私にしかできない仕事をやりたい」
と言ったという.
上司は当然,
「コピーなど誰にだってできる仕事だ.
つべこべ言わず早くとってこい」
と言ったらしいのだけれど,
それでその女性はカチンと来て
仕事を辞めたのだという.
「やれやれ」(村上春樹風)
私はこれは最近の「本当の自分探し」のブームの悪影響かと思う.
私がよくいう「自分の気持ち第一主義」の弊害である.
「ナンバーワンよりオンリーワン」などと喧伝されているが,
実際のところどうなのだろう.
オンリーワンとはどんなことを意味しているのだろうか.
そしてそれは,会社の現場でありうることなのだろうか.
そもそも「自分にしかできない仕事」は
そうそう簡単に見つかるのだろうか.
私の仕事だって,私が倒れれば,
来週には誰かが私の代わりに教壇に立って
講義をするだろうし,諸々の雑務も複数人に
分担されることだろう.
全然,私である必要がない.
(研究についてはそうでないと願いたいが)
もちろん,作家や芸術家は,
「自分にしかできない仕事」であろうけれど,
そうでない普通の,ほとんどの仕事は
「換えがきく」ものなのである.
それなのに,自分にしかできない仕事を
夢見ている.
もしもそうした仕事があるとしたならば,
職場で頑張って,その人にしかできない
仕事を自ら作り出すしかないだろう.
「見つける」のではなく,「作り出す」方が,
よっぽと実現の可能性がある.
しかし,それには自分にそれができるまで,
仕事を頑張らなければならない.
少なくとも,まずは与えられた仕事をこなせなければ.
もしかすると一生,自分にしかできない仕事は
見つけられない,あるいは作り出せないかもしれない.
それでも一生懸命やるのが仕事なのでは
ないだろうか.
自分の気持ち第一主義で,
自分が特別であると信じることも
時には必要ではあるかもしれないけれど,
現実にはそうでもないことに
早々に気づくべきである.
「オンリーワン」で,「特別」な人に
なるためには,それ相応の代価を
支払わなければならないことを忘れている.
そしてそれは自分でなるものではなく,
他人が認めることなのだ.
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