老眼でモノもよく見えなくなってきた.もともと近視でもあるから,目の焦点が合う距離が限られてきて,対象物をもって手を離したり近づけたりして調整する必要がある.
そして耳もずいぶん遠くなってきた.大事な話が聞こえない.どうも最近は悪口を言われてもそれさえも聞こえなくなってきたようだ.
こうした心身の老化は,実はあちらの世界に行く準備を少しずつ整えていることではないかと考えるようになってきた.この世に未練を残さぬよう,嫌なことを見たり聞いたりしなくなり,その上で多くのことを忘れることによって,綺麗さっぱりあの世に行けるのである.
老化はゆっくりとした死への準備である.
以前にも書いたが,村上春樹の小説「タイランド」に興味深いセリフがある.
「これからあなたはゆるやかに死に向かう準備をなさらなくてはなりません。これから先、生きることだけに多くの力を割いてしまうと、うまく死ぬることができなくなります。少しずつシフトを変えていかなくてはなりません。生きることと死ぬることとは、ある意味では等価なのです、ドクター」
とうとうそうしたことを真剣に考える年齢になった.でも,それを静かに受け入れることができる歳でもある.
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