2024年4月13日土曜日

オッペンハイマー

 これは傑作!間違いない、と映画を観終わって席を立つときに確信した。

アカデミー賞をとった作品だからというわけではない。まぁ、私はクリストファー・ノーランが好きということもあるけれど、作品自体がたいへん面白くて3時間の上映時間の長さを感じさせなかった。

本作は、彼がナーバスな学生時代から原爆開発のマンハッタン計画で頂点に昇りつめ、その後栄光と後悔を抱きながら生きていく。ひとりの研究者の人生を正面から描いた正統派映画であって、戦後名声が地に落ちそれが回復されるまでの過程が描かれている。一方で、一歩引いた観点からみれば、原子力爆弾がなかった世界から、それが「ある」世界へと変わってしまったエピック的な出来事を描いているともいえる。そしてオッペンハイマーは、それが世界に与える影響を予見していた。

作中では、オッペンハイマーは、一流の研究者で、「原爆の父」であったかもしれないけれど、ヒーローでもなんでもない一人の苦悩する男として描かれている。流行りの思想にも浮かれるし、女にもだらしがなかったりする。またマンハッタン計画でみんなをまとめるのに東奔西走したりする。つまりは身近にいる弱さをもつ男として描かれている。だからこそ、私も映画を観ながら、「私だったらどうするだろう?」と自問を繰り返すことになった。そして,彼同様,ニューメキシコの核実験のシーンではドキドキしたし,その後彼が罪悪感に苛まれるシーンでは私も身もだえした。映画を観ることでオッペンハイマーの人生の一部を生きたような気がする。すなわち本作はそう思わせてくれる傑作なのだと思う。

オッペンハイマーについては学生時代、「アインシュタインの部屋」という本で彼の人生を知った。この本は、プリンストンの高等研究所に招かれた天才たちのおかしなエピソードをまとめた本だったけれど(アインシュタインとかゲーデルとか。映画にも出てきた。もう読んだのは30年以上前だからちょっと内容はおぼつかない)、オッペンハイマーというハンサムな英雄の数奇な運命が紹介されていてそれが印象深かった。私は大学を出てから、日本原子力研究所に就職したこともあり、彼のことはずっと気になっていたのだ。それが今回、こんな形で、そしてノーランの傑作として、彼の人生を知ることができるなんて...とても...

研究者であるならば、そうでなくても世界を変えてしまった男の人生を知りたいと思う人であるならばぜひ観るべき映画である。観た後に余韻と映画が出す宿題を楽しむことができる。

星5つ!(満点)★★★★★

#実際のところ、彼の性格にはちょっと鼻につくところがあったのかもしれない、とストローズとの確執のエピソードをみて思う。残された言葉も少し芝居がかっているところがある。

#フォン・ノイマンが出てこなかった...

#音響が素晴らしい。ぜひ映画館で!今年映画館で観た4作目。

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