2024年6月15日土曜日

「滅相も無い」 ~よくわからないが「人間」を感じさせるドラマだった~

 「滅相も無い」というテレビドラマを見ていた。毎日放送MBSが制作している深夜ドラマの枠である。最終回(第8回)が放映されたので感想をまとめる。

はっきりいってよくわからないドラマだった。

まず,設定がよくわからない。この日本において,空間に突然巨大な穴が開いた。これまでに少なくない人数の人間ががその穴に入っていったが戻ってきた人はいない。その穴を神として宗教家があらわれ(堤真一),その信者8名が集まって穴に入る前に自分の人生について話し合うという設定である。もちろん登場人物の人間性を掘り下げる切っ掛けとして,こうしたSF設定は都合がよいとは思うのだけれど,そこに切っ掛け以上の意味はないように思う。「穴」はなにかの暗喩であるのかもしれないが。

次に,演出がよくわからない。演出が舞台くさかった。と思ったらこの番組の監督は加藤拓也という人で,岸田國士戯曲賞などを受賞している気鋭の舞台作家だった。集まった信者8名がそれぞれ1話ごとに自分の人生について話始めるのだけれど,8名が一緒に居て話しあうところは普通のドラマ演出なのに,各自の話となると舞台風の演出となる。すなわち場面転換なども舞台風,着替えなども舞台風,こうした演出が苦手な人には不向きなドラマであった。なぜこのような舞台風の演出にする必要があったのだろうか。各人の独白には確かに深みが加わったように思えたけれど...

しかし出演者は超豪華だった。まず宗教家の堤真一なんて,全編を通してちょっとしか出てこない。なんか抽象的な言葉を吐くだけの怪しい人だった。そして各話で人生を独白する人は,出演順に,中川大志、染谷将太、上白石萌歌、森田想、古舘寛治、平原テツ、中嶋朋子、窪田正孝であった。さすがにみんなうまい。話に引き込まれる。しかしその一方で語られる内容はあいまいで,テーマもぼんやり。結局,穴に入る,入らないという決断についてもその理由が明確に説明されない。人間とは各人が語る不条理な人生を送り,あいまいな決断で生きているものだと思わされる。スッキリ感は全くない。

そして最後にタイトル。どうして「滅相も無い」というタイトルだったのだろう。そこが一番よくわからない。

といろいろ悪口を並べてみてきたけれど,結局,全話最後まで見てしまった。それはなにより出演者の演技の魅力が理由に他ならない。わけがわからないけれど,人は決して完全な人生を送ることができない。それが「人間」なのだと感じさせるドラマだった。

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