村上春樹に,「納屋を焼く」という不気味な短編がある。結局,「謎」が「謎」のまま残され,どうなったのか,何が起こったのか,わからないまま終わってしまう作品である。
主人公の女友達がボーイフレンドを連れてくる。酒を飲みあって(大麻も吸って),そのボーイフレンドが主人公に向かって「時々,納屋を焼く」という。そして近いうちにも「納屋を焼く」という。主人公はそれから,近隣に注意してみるが焼かれた納屋は見つからなかった。ふたたびそのボーイフレンドにあって尋ねると納屋はきれいに焼いた,という。それでも焼かれた納屋は見つからない。そして主人公の女友達も消えてしまった。
結局,「納屋を焼く」というのはなにかのメタファーであり,それは女友達が消えたことから彼女に関係があるのは間違いないのだけれど,何を示しているのかよくわからない。ネット上ではこれまで多くの考察がなされていて,その言動の不気味さから彼女のボーイフレンドが彼女を殺した,とか,主人公の中から彼女の存在を消し去った(恋人を奪った?)などと書かれている。
村上春樹は謎は謎のままにしておくのが好きなようだから,結局のところ答えはこのまま明らかにされないだろう。しかし,この不穏な終わり方は私たちの不安を宙づりのままにしてしまっている。そしてそれが魅力であって,種明かしされてしまったらこの作品はつまらないものになってしまうかもしれない。私にとっては,謎は謎のままがいい。
さて,突然「納屋を焼く」を取り上げたのは,そんな考察合戦に私も加わりたいからではない。実は最近,「納屋」という意味の英単語が「Barn」だと知って(本当に英語の勉強不足が恥ずかしい),「納屋を焼く」って,「Barn Burning」というオヤジのダジャレみたいだなと思ったことによる。むしろ韻を踏んでいるというべきなのだろうけど...
村上春樹のダジャレなのかと思ったら,ウィリアム・フォークナーにも同名の作品があって決してダジャレではないことも知った(そもそも,あんな不気味な小説にダジャレみたいなタイトルはつけないだろうけれど...)。でも面白くて,この作品を取り上げてみた。久しぶりに読んでみようかな,と思う。
#佐野元春のアルバムに「The Barn」というものがあるけれど,これも「納屋」という意味であっているのだろうか?それともなにか別の意味なのか。。。
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