2009年10月19日月曜日

音楽はサウンドか,小説か

今年の吉田秀和賞の受賞作である
「音楽の聴き方-聴く型と趣味を語る言葉-」
(岡田暁生,中公新書)を読了.

音楽には,サウンドと音楽の2種があり,
単に聞き流すことができるサウンドに対して,
音楽とは,誰かが誰かに向けて発信したものであり,
それを理解するためには,ある程度の型を知らなければ
ならない,という著者の主張をもっともだと思うとともに,
サウンドとしてクラシック音楽を消費しがちな自分の
音楽生活を反省することになった.

音楽とは誰かに向けて書かれたものである以上,
そこには文法があり,地方性が存在する.
ドイツ語の発音・話法にドイツ音楽の基盤があり,
フランス語にはフランス音楽のそれがある.
書内に紹介されているドイツ音楽の大家R. シュトラウスが
フランスのドビュッシーの音楽を理解できなかったエピソードは,
超一流の音楽家であってもその文法を理解せずには,
なにがその曲に書かれているのか理解できないという
衝撃的な事実を明らかにしている.」

私が以前,シベリウスの音楽を聴いて,
音楽は小説と同じだと突然感じたのも
決して偶然ではないのかもしれない.

今朝はNHK FMでシューベルトの歌曲が流れていた.
(「冬の旅」から「おやすみ」と「辻音楽師」)
その休止の取り方,抑揚はやはりドイツ語に依存しているのだろう.
日本語歌曲だってそのなのだから.
外国人歌手が日本語歌曲をどれだけ正確な発音で歌っても
どこかでしらじらしく聞こえてしまうのは,やはり何かが
欠けているのに違いないと思うのである.

日本歌曲的には,やはりその呼吸というものがある.
それを破るとどうも不自然に聞こえるのである.
ずいぶん前の話だけれど,「題名のない音楽会」で
作曲家の黛敏郎が,ドリカムの「ひらり」という曲
(NHKの朝の連続テレビ小説「ひらり」のテーマ曲)
について,日本歌曲のルールを全く無視したような
曲展開に非常に腹を立てていたのを覚えている.
確かにひどい語句の不連続があるのだけれど.
日本歌曲を誇りをもって作曲している人には,
ドリカムの曲の跳躍が許せなかったのだろう.
(黛敏郎は「ぞうさん」の作曲者でもある)

同じ理由で,アメリカのロックに日本語が
うまく乗るか,という問題が以前から話題になっている.
「はっぴいえんど」などはその問題をどうにか
解決しようとしたバンドとして今も名を残している.
私はそのひとつの解を示したのが,
佐野元春であると思っているのだけれど,
いまだにロックに日本語はどうかと思ってしまうのだから,
これはまだ解決していない問題なのだろう.

ただ,この本の作者は,最終的にそうした文化相対主義に陥らない
普遍主義的な音楽の聴き方があるはずだとの主張に
辿りついているのだけれど,本当にそうなのだろうか.

以前に観た小澤征爾の若いころの映像でも,
「東洋人がクラシック音楽を本当に理解できるのか」
という問いに対して非常にナーバスな反応を示し,
撮影を断るシーンがあったのを覚えている.

また,アルバンベルクカルテットの第一バイオリンのピヒラーは
東洋人には結局理解できないと明言したと最近報道があった.
実際西欧人から見るとそういう考えがあるのも否定できない.
(だって,日本人だって西欧人が尺八の音色を理解できるとは
思わないもんなぁ)

ヨーヨーマなんかもこの話題に対しては非常にセンシティブで,
この議論になると,ずいぶんと時間を費やしていたという話がある.
(現在では,マは,西欧音楽を知らない東洋人には,
知らないというだけのアドバンテイジがあるという主張をしているけど)

確かにどこかで,西欧音楽とアジア音楽との間には
深淵が横たわっているとは思うのだけれど,
その一方で,東洋人も十分にクラシック音楽を楽しむ
能力を持っていると思う.

音楽の普遍化は,音楽がサウンドになりさがる可能性をもち,
一方で音楽の囲い込みは普及を拒否して,そうした音楽の
存続を危うくする.
結局,音楽はサウンド化,すなわち「音楽に国境はない」という
方向に進むしかないとは思うが,失われるものの大きさも
覚悟しなければならない.
それが音楽にとって本当に幸せなことなのか...
う~ん,難しい.

いろいろなことを考えて音楽を聴かずにはいられない.
考えて聴く.
それが音楽の楽しみを増すことに他ならない.
あぁ,わたしにとって音楽はサウンドなのか,語りなのか.
これからもずっと悩み続けるのだろう.

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