2009年6月17日水曜日

エジソンの夢,直流給電

月曜日は,日経エレクトロニクス主催の
「直流給電のすべて」というセミナーに参加する.
もちろん,世界のほとんどの電力系統が交流で
給電されており,直流給電は明らかにマイノリティである.

しかし,しかしである.
有料のセミナーであるにも関わらず,会場は満員.
たぶん300名は優に越えている参加者があった.
この不況下でも,である.

実は,直流送電の歴史は古い.
エジソンが初めて電力の供給会社を設立したのは,
直流送電だったのである.
その後,みなさんよくご存じの通り,
テスラの多相交流の発電の発明によって,
交流送電の優位性が言われるようになり,
交流と直流の,テスラとエジソンの戦いが始まる.

結局ナイアガラ発電所からの長距離送電に
交流方式が採用されて,
一応の決着がついたわけなのだけれど,
実はニューヨークではずっと直流給電が行われていて,
3年ほど前にようやく交流に切り替えられたのだという.
(今回のセミナで知った)
ずっと直流の火は燃え続けていたということらしい.

交流の良さは,変圧器を使用して,
電圧値を自由に変換できるところにある.
そしてその効率は99%にも達するのだから,
これを利用しない手はない.

長距離を送電するには高電圧にした方が得である.
電線を流れる電流が小さくなるので,
電線の抵抗による損失が減るのである.
だから,遠く離れた海近くの発電所で発電された電力は,
50万ボルトにも電圧を上昇させて,
遠距離の電線で送られる.
それが私たちの街に近づくと,254kVや66kV,
6.6kVにまで変電所の変圧器を通じて電圧を降下させ,
最終的には,電柱の上の変圧器を用いて
200V,100Vに変換されて私たちの家庭に届けられる.
こうした電圧変換が容易になるのが交流システムの良さである.

一方,直流は変圧器で電圧を変えることはできない.
それをするには,半導体変換器で変換しなければならない.
パワーエレクトロニクスの登場である.

近年の半導体デバイスの進歩で,
たいへん高効率な直流の電圧変換が可能となってきた.
これだったら直流システムもメリットが出てくるのである.

現在,私たちの周りを見回してみると,
実は直流を使っているものが多い.
まずは,携帯電話のアダプタ.
ノートPCのアダプタ.
これらは,100Vの交流を19Vや12Vの直流に変換する
パワエレ機器であるのだ.

そして,交流のコンセントに接続しているけれど,
実は内部で直流を使用している機器も数多いのである.
例えば,エアコンやIH調理器,IH炊飯器,
テレビもそうだし,一部の高級蛍光灯もそうだったりする.
インバータと呼ばれる交流を直流に変換する
半導体変換器を用いて,きめ細かい制御を行っているのだ.
(具体的に言うと,周波数や電圧を制御している)

したがって,これらの装置は,
一度交流できたものを一旦直流に変換し,
それを使用するか,その直流を
あらためてまた交流に変換して使用しているのだ.
その無駄を省くために,はじめから直流で給電する.
これによって電力の変換段数が減り,
変換ロスが低減される.
つまりは省エネになるのだ.
(その他,部品数が減って信頼度があがるなどの
メリットがある)

これまでもNTTのデータセンターなどで
直流給電はされてきた.
それが家庭内にも広がろうとしている.
まずは48V以下の低電圧だろう.
火災報知機,照明,インターホンなどは
こうした電圧で賄われることになり,
効率が向上することが期待される.
一方では商品のディスプレイ用に12Vの直流給電の
システムはすでに市販もされている.
すべてが直流になることはないだろうが,
交流だけでなく直流も今後私たちの周りに
普及していくことが予想される.

そして自動車.
自動車が電気で走る時代,
やはり直流給電が重要である.
積載している電池も直流なのである.

マイノリティではあるけれど,
今後広がりそうな予感がする直流給電.
その匂いに惹かれて300名を越える参加者が
セミナーに参加したのだろう.
(私もその一人だけれど)

講演者のプレゼンにもあったのだけれど,
今の状況を見たらエジソンは喜ぶかもしれない.
テスラに敗れたエジソンの夢がいま復活しつつある.

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