先日,研究室を訪問された台湾の先生が,
最も古いパワーエレクトロニクスの教科書を
見せてくれというので,日本語で書かれた教科書のうち,
そうでありそうな一冊を選んであげた.
(ちなみに台湾ではパワエレには英語で書かれた
教科書を用いるのだそうである.
中国語で書かれたパワエレの本は数が少なく,
また内容も大学の講義用としては簡単すぎるのだという)
その一冊とは,
「最新電気機器学」 宮入庄太 著 (丸善)
である.パワエレ専門の教科書ではない.
そう,パワエレはその最初の頃は「電気機器」の一部として
教えられていた技術なのである.
私の持っているこの教科書を見ると(昭和54年増補改訂版とある),
半導体変換器としては,ダイオードの他に,最新の素子として
SCR (サイリスタのGEがとった商標)が紹介されている.
私もサイリスタ変換器を学習したものである.
しかし,大学の研究室に入ってから,IGBTが使えるという時代が
やってきた.研究室でもそれを使用して実験をする同僚がいた.
(残念ながら私はそのグループではなかったけれど,
スナバ回路がうまく設計されていなかったためか,
素子が火花を飛ばして壊れていくのをなんども目にしたものだ)
自己消弧素子の時代がやってきたのである.
そして現在.
パワーエレクトロニクスは電気機器から独立して,
電気系の重要な講義のひとつとなった.
自己消弧素子の使用を前提としているPWM制御が
当たり前のように講義で教えられている.
これが,たった20年とちょっとの間の変化である.
今学生たちには,IGBTやMOSFETが当たり前で,
サイリスタが苦手な素子となってしまった.
制御回路をアナログで組んでいた時代も終わり,
マイコンやDSPによるデジタル制御が主となった.
そしてパワーエレクトロニクス技術を駆使した製品が
私たちの身の回りに溢れている,そんな時代になった.
「デジタル・ネイティブ」という言葉にならって言えば,
今の学生は「パワエレ・ネイティブ」なのだ.
私たちの時代とはまた少し違うのだ.
(私たちは過渡期の世代で,私たちより
上の世代は「トランジスタ世代」である)
彼らの世代からはまた新しい発想が生まれてくるのだろう.
そうした未来に希望を持ちたいものである.
2010年6月1日火曜日
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