2010年9月28日火曜日

マトリックスコンバータの行く末は

昨日は,九州の安川電機の工場に
電気学会の調査専門委員会の見学会に
参加させていただいて,
お邪魔させていただいた.

安川電機といえば,汎用インバータで
世界第1位を占める大手メーカであるけれど,
マトリックスコンバータを世に先駆けて
製品化した企業としても知られる.
今回の見学会は主にマトリックスコンバータに
関するものであった.
(上記調査専門委員会がマトリックスコンバータの
調査を目的としたものなのだ.
実は私は委員ではないけれど,今回は
参加させていただいたのである)

素晴らしい製品の数々を見学させていただき,
そこに集積された技術の深さを思った.
大変勉強になった.

マトリックスコンバータは,1980年代初頭に
明確な形で示されて以来,
世界中で研究が進められているのだけれど,
今ひとつ市民権を得ていない.
昨日の見学会や打ち合わせでは,
このマトリックスコンバータをさらに普及するには
どうしたらよいのかという議論になった.
(これがそもそもの調査専門委員会のテーマらしい)

そこで話題になったのが,
マトリックスコンバータには教科書が無く,
それを議論する研究者,技術者に共通の基盤が無い,
というものである.

つまりは,マトリックスコンバータは確かに
交流/交流直接変換を行うので,
メリットがありそうだけれども,
それがいまひとつはっきりしない.
また,制御方法が複雑で理解しにくい.
などの理由がその普及を妨げているのだ.

ユーザとしては,やはり使用している装置を
理解したいと思うのは当然である.
しかし,マトリックスコンバータは
まだカーテンの向こうにあるのだ.
制御法もいくつも提案されているが,
回転や振動する空間ベクトルをもとに
出力を制御するために,やはり複雑になってしまうのは
仕方がない.
しかし,そこがわからないとなにかしら不安で,
ユーザは導入をためらってしまうのだ.

安心できない,というべきか,
「腑に落ちない」というべきか.
通常のインバータならば,どうやって動作するかは
パワエレの技術者であれば理解しているので,
ある程度安心して装置の導入が可能となる.
しかしカーテンの向こうにあるマトリックスコンバータは
どこか腑に落ちないところがある(と思われる).
どれだけメリットが明らかになっていたとしても,
釈然としないということがネックとなる.
技術者は結局「身体的に」理解している知識・智恵に
頼るのだ.
「腹でわかる」という感覚なのだろう.
マトリックスコンバータをそのレベルまで
落とし込むということが,これから必要とされていることなのだ.

もちろん,これらの議論はマトリックスコンバータだけに
かぎらず,技術全般に通じる話である.
ユーザが安心を感じるためには,
ある程度,知識が共通化しなければならないのである.
ブラックボックスでは困るのである.

マトリックスコンバータにかかわる研究者,技術者は
そこら辺の事情を理解して,活動をしていかなければ,
マトリックスコンバータの行く末が難しいものになるのだろう.

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