ハンドスピナーことFidget Spinnerが日本でもじわじわと話題になってきた.なんのことはない,たいへん低損失のボールベアリングで回るフライホイールなのだ.
フライホイールとは日本語で「はずみ車」で,重さをもった円盤(あるいは円環)を高速で回すことによって力学的なエネルギーを貯蔵するものである.例えば,自転車の後輪を浮かせてペダルをぐるぐる回す.ある程度回転速度が高くなるとペダルから手を離しても車輪はしばらく回り続ける.あれである.車輪にたまったエネルギーはベアリングなどで消費され,速度はゆっくりとなりやがて止まる.これは貯蔵エネルギーがゼロになったことを示す.
あるいは木くずに木の棒を押し当ててぐるぐる回す火おこしをご存知だろう.棒の先に円盤がついている器具をみたことはないだろうか.その重みで回転させるのが楽に感じるようになる仕掛けである.太古の時代より,人類はフライホイールにお世話になってきたのである.
核融合のための臨界プラズマ試験装置JT-60では,巨大なパルス電力を使用するため予めフライホイールを回してエネルギーを貯蔵しておき,必要なときに一気に放出する電源システムになっている.フライホイールも巨大で,確か直径6.6m,厚さ0.4m,重さ107トンの鉄のディスクを6枚縦に積んで,それを発電機の回転子に直結して使用している.発電機とあわせて貯蔵エネルギーは8GJ.そのうち4GJを1回のパルスで放出できるシステムだ.もうこんな大きなフライホイールは作れないかもしれない.ちなみに直径の大きさは製鉄所の炉のだったか,鍛造機だったかの入口の大きさで決まったとのことである.
フライホイールの良さは,単純かつ高繰り返しに強いことである.一方,欠点は待機電力が大きいこと.使わないでただ回っているだけでもそれなりの電力が必要となる.JT-60のフライホイールの回転速度は600rpm,周速は音速の2/3にも達するということだから相当の風損がある.約1000トンを支える軸受も大きな損失を生じる.しかし,これほど堅牢で長寿命のエネルギー蓄積装置はそうそう見つからないのである.バッテリーもキャパシタも敵わない.
宇宙戦艦ヤマトは波動エンジンを始動するときに,まず補助エンジンにてフライホイールを回転させ,それを接続することで波動エンジンを起動させていたような描写がある.「フライホイール接続,点火!」というあの島大介の掛け声(?)である.あのころはフライホイールは身近だったのだ.先日,豊中キャンパスで1年生を中心としたクラスの講義でフライホイールについて尋ねたら知っている学生はほとんどいなかったのだが...
とにかくハンドスピナーを見て思うのはフライホイールである.世の中の子供たちがフライホイールにもう少し親近感を持ってくれるとうれしい.
2017年5月20日土曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
Love Letter
岩井俊二監督,中山美穂主演の「Love Letter」が,公開30周年記念,中山美穂追悼ということで,4Kリマスター版として現在上映中である。残念ながら私が住んでいる長岡では上演がなく,新潟市まで行かなければ観ることができない。上映期間中に私も観られるかどうか。 この映画は岩井...
-
本ブログのコメントに, (電力)供給過多になるとなぜ、発電機の回転数が上がるのか というご質問をいただいたので, それについての回答を少し. (すみません,コメントいただいていたのに 気づくのが遅れました) 発電機の回転数は,個々の発電ユニットで見れば, 発電...
-
最近,TRICERATOPSの曲を突然思い出したように聴き出しているのだけれど,いろいろなことがつらつらと思いつくので,それらを備忘録的に書いてみる. トライセラトップスのボーカルといえば,和田唱.彼は私のひとつの理想的なカッコよさ(私には絶対進めない方向のカッコよさ)を体現...
-
Googleをはじめとして, 検索ツールなしでは仕事ができない, というところまで現代の私たちは来てしまった. 特に研究分野においては, 過去の研究のサーベイ,現在の市場調査, 世界の装置のリストアップなど, もう検索ツールの便利さ無しでは, 考えられない状況である. こうした状...
👍
返信削除