長岡の街は茶色い。街中の道が赤茶けた錆色をしている。私が長岡の大学に赴任することが決まったとき,真っ先に思い浮かんだのはこの赤茶けた錆色の道路である。
長岡を訪れた人はこの錆色の道路に驚く。たとえば東京の明るい灰色をしたアスファルトの道路とあまりにも違う。街全体が錆びついているような印象を与える。曇り空の下,憂鬱な街といった雰囲気を醸し出している。
なぜ道路が錆色をしているのかというと,それは融雪パイプのせいである。雪が多い長岡では道路の雪を溶かすために,道路の中央に融雪パイプが埋められていて,雪が積もりそうになると公園の水飲み場の水のように水が吹き出す仕掛けになっている。おかげで道路の凍結などが防げるのだけれど,その水は地下から汲み上げている。もともとの地下水が鉄分を含んでいるのか,それとも融雪パイプ自身が鉄管なのかわからないけれど,融雪パイプから出てくる水は鉄分を多く含んでいるようなのである。そしてその水が錆びて道路を赤茶色ににじませているのである。
私は,この錆色の長岡の街を思うとき,大好きな小川未明の「眠い町」という作品を思い出す。主人公のケーは「眠い町」で出会ったなぞの老人から分けてもらった「疲労の砂」を世界に撒きながら旅をする。この疲労の砂をかけられると,ものは腐れ,鉄は錆び,人は疲労のうちに眠くなってしまうのだ。世界の工業化に逆らうようにケーは砂をまいていたのだけれど,とうとう砂はつきてしまう。ふたたびケーが「眠い町」を訪れると。。。
長岡の街はこの「疲労の砂」を撒かれたのではないだろうか。そんな空想をすることがある。私がときどき異常に眠くなるのも,その砂のせいではないだろうか。ケーはいつかこの街を訪れたに違いない。
#小川未明の作品は,どこか藤本タツキの作品に似ているような気がする
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