2009年7月29日水曜日

「小川未明 童話集」と怪談

ときどき何かが無性に食べたくなるように,
突然にどうしても読みたくなる物語がある.
私にとって,そうした物語のひとつが,
「小川未明 童話集」である.

新潮社から出ている文庫本を
以前から所有していたのだけれど,
最近どうも手元に見つからなかった.
きっとどこかの引き出しの奥にでも
隠れているのだろう.

しかし,昨日,どうしても彼の作品が
読みたくなってしまった.
こうなってくるともう抑えが効かない.
仕方がないので生協にいって,
一冊購入してしまう.
そして昨晩,収められている童話のうち,
何話かを貪るように読んだ.
なにもかもをさておいて,
一心に読んだのである.

彼の作品は相変わらず
もの哀しさと切なさを含んでいて,
心に擦り傷をつけるような
そんな読後感に十分に満足した.

小川未明という人は,
どうしてこのように美しく,湿度をたたえた
抒情性に満ちた作品が書けたのだろうと
不思議に思う.
戦争中から戦後に書かれたであろう
作品たちであろうに.

彼の作品がもつ湿り気は,
日本人の感性そのものなのだと私は思う.
「赤いろうそくと人魚」は彼の代表作で,
哀しさと美しさにあふれた物語なのだけれど,
それは怪談といってもいいくらいの
恐ろしさも兼ね備えている.
そう,実に怪談そのものなのだ.

私は最近思うのだけれど,
怪談にこそ日本の特質が
集約されているような気がする.
陰湿な出来事,因縁,非論理性.
これらが絶妙に調和されている.
そんな怪談こそが日本の美しさを
映し出しているように思うのである.

そして,小川未明の作品は,
それらを十分に備えたものになっている.
さらに,せつなさ,はかなさがそこに加わる.

「金の輪」という物語は,長さでいえば
4ページ程度の非常に短い作品であるけれど,
彼の作品のそうした美点が抽出され,
純粋に結晶化したような佳作であると思う.
読んだ後,そっと胸に残るせつなさを
ただじっとかみしめるだけ.
そんな,私にとって宝物のような作品なのである.
今回もこの作品を読んで,
ようやく飢餓感が癒された.

童話集ということで大人は敬遠してしまいがちだけれど,
こんな素敵な物語を知らずにすますなんて
なんてもったいないことだ,と思う.
ひとつひとつは本当に短い物語なのだから,
ちょっとした時間にぜひ目を通してもらいたいと思う.
たぶんその魅力のとりことなって,
すぐに次の作品が読みたくなるに違いない.
そして,彼の作品は怪談であるという私の意見に
同意していただけるに違いないのである.



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